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【大学野球】「努力はウソをつかない」――この言葉を信じて体現してきた立大右腕・沖政宗の野球人生

 

「生活改善委員」の役職


立大・沖は東大2回戦に先発し、5回無失点で今季2勝目を挙げた。4年春までに通算42試合、7勝9敗、防御率2.77。チームのために腕を振り続けている[写真=矢野寿明]


【5月26日】東京六大学(神宮)
立大5-0東大(立大2勝)

 立大の4年生右腕・沖政宗(4年・磐城高)には、岡本豪(4年・報徳学園高)とともに、チーム内で「生活改善委員」の役職がある。

 新チーム結成時、主将・田中祥都(4年・仙台育英高)から同ポストを任された。言うまでもなく、信頼の証しである。

 努力はウソをつかない。沖はこの言葉を信じ、体現してきた野球人生である。

 文武両道の鑑だ。小学校時代から東京六大学、神宮でのプレーにあこがれ「勉強と野球を頑張る。小、中、高と歩んできました」と語る優等生だった。福島県屈指の進学校・磐城高では、3年春のセンバツ21世紀枠での出場を決めていたが、コロナ禍で無念の中止。

 センバツ出場32校が招待された8月の甲子園交流試合でマウンドを踏み「1試合でも感謝の気持ちです。あのゲームがあるから、今がある」と語る。一方でこんな思いも……。

「磐城高校は部活動が盛んなんです。インターハイらが中止となっている中で、野球部だけ甲子園での1試合が実現しました。優遇されている、心苦しさがあったのは事実。自分たちは一生懸命やるしかありませんでした」

 周囲に気配り、心配りができる人間である。指定校推薦で立大に進学。3年秋までに33試合に登板した。下級生時代から先発、救援とさまざまな立場で、チームに貢献。今春も15試合中9試合に登板。誰もが認め、頼りにしたくなる右腕である。今季最終カードは東大戦。勝ち点0同士の直接対決だった。

 沖は先勝で迎えた東大2回戦で先発起用され、5回無失点で勝利投手となった。連勝で今季初の勝ち点1を挙げ、5位でシーズンを終えた。6勝8敗1分。立大は東大以外の4校から1勝を挙げるも、惜しくも勝ち点(2勝先勝)には届かなった。今春から母校を指揮する木村泰雄監督は「やれる、という自信はついた」と手応えを口に。沖はこう言った。

「新チームから『生活から始めよう!!』と言ってきまして、どのチームからも1勝を挙げ、昨年よりは変わったかな、と。主将・田中とも話し合い、もう一度、寮生活から見直して、夏の練習を積んでいきたいです」

「4年生が後輩たちに何かを残していきたい」


 立大は昨秋、明大との3カード目を迎える直前、一部の野球部員による複数の問題行為が一部報道で発覚した。大学側は調査委員会の設置を発表した上で前部長、前監督の活動自粛。次期監督に内定していた木村コーチが監督代行として指揮した。明大戦では責任を感じた4年生が、神宮球場での活動を自粛。次の早大戦以降は、一部を除いた4年生が復帰も、勝ち点1の5位でシーズンを終えている。

 調査委員会の報告を受けて昨年12月22日に「今後の対応」が示され、大学におけるマネジメント問題への対応整備、再発防止策が行われた。活動再開は年が明けた1月21日。木村新監督以下、学生たちは今後の野球部の方針についてミーティングを重ねた。チームスローガンを「結束」とし学校生活、寮生活の安定、そして地域清掃など、野球以前の活動に力を入れた。大学生としての取り組みを抜本的に見直し、春のシーズンを戦ってきたのだ。秋に向けて具体的にもう一度、何を見直していくのか。生活改善委員・沖は語った。

「当たり前のことを、当たり前にすると、精神的に安定するんです。何かをしよう!! ということではなく、当たり前にできることから、着手していきたいと思います。自分たち4年生が後輩たちに何かを残していきたい」

 リーグ戦成績は昨秋と同様、勝ち点1の5位だが、神宮に臨むまでの過程と、その内容が劇的に変わった。秋への光明が差した春は、多くの学びがあった。野球部員である前に、立教大学の学生として、自覚ある行動を取る。改革には「痛み」が伴う。最上級生の尽力で、3年生以下も理解を示した。形として、神宮で成果を生み出した。立大野球部には2024年、新たな伝統が築かれようとしている。

文=岡本朋祐
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