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【大学野球】指揮官の思いが乗り移った吉納翼の2本塁打 早大が慶大に先勝で優勝へ王手

 

不振からの脱出


1対0の3回裏二死走者なしから左越えソロ。慶大・外丸東眞[3年・前橋育英高]のスライダーを、逆方向へ運んだ[写真=矢野寿明]


【6月1日】東京六大学(神宮)
早大8-1慶大(早大1勝)

 早大が2020年秋以来、47度目の東京六大学リーグ制覇へ王手をかけた。勝ち点奪取(2勝先勝)が条件である慶大1回戦を先勝した。

 早大の三番・吉納翼(4年・東邦高)が1対0の3回裏二死走者なしから左越えソロ。3対0の6回裏は2点を加点した後、二死二、三塁からバックスクリーンへ中越え3ランを放った。試合を決定づける豪快な一発。副将が2本塁打4打点で、大事な初戦を先勝した。

 通算8、9号は早慶戦初本塁打だった。この日は今季最多3万人の大観衆。「1プレー、1プレーが気持ち良かった。一つのアウトで気持ちが乗ってくる。(本塁打の)大歓声は、死ぬまで忘れない」。興奮気味に話した。

 早慶戦を迎えるまで4カードで打率.229、1本塁打、6打点と苦しんでいた。

「期待をされながらも、結果を残せなかった。実力不足。その中でも、チームメートの頑張りがあり、優勝をかけた早慶戦という状況に持ち込めた。終わったことは、変えられない。早慶戦を単体に見て、この2週間、死ぬ気で練習してきた。気持ちの整理はできていた」

 早慶戦を3日後に控えた5月29日、かつて早大の打撃コーチを務めた徳武定祐氏(元国鉄ほか)の自宅を訪問。吉納はバットを携え、スイングをチェックしてもらった。バットを斬り込むことを意識。帰り際に言われた。

「大丈夫だ!!」

 悩める主砲に、これ以上の言葉はなかった。

小宮山監督からの叱咤激励


6回裏にはバックスクリーンへ中越え3ラン。試合を決定づけた[写真=矢野寿明]


 早大・小宮山悟監督は吉納のこの日2本目となる3ランのシーンを、こう振り返っている。

「1本目はラッキーな風の(影響による)本塁打で多少、力が抜けたと思うんです。2本目の本塁打の前に、このイニング、追加点を取れたら間違いなく勝てる。さらに言うと、彼のいろいろなものも含めて、ベストナインに投票してもらえるかもしれない。価値のある打席。この春、一番の集中力で行け!!」

 一塁ベンチから打席へ向かう際に発破をかけていたが、実は試合前にもこう明かしていた。

「前カードの法政戦を含めて、結果は出ていなかったが、打撃の状態は悪くない。一つのきっかけさえつかめば……。今日、3本塁打で、明日(2回戦)も打てば、ベストナインもある」。指揮官の予言を打撃練習後、吉納本人に伝えると「何とかチームの勝利に貢献します」と、俄然、意欲を見せていた。さすがに3本塁打とはならなかったが、小宮山監督の思いが乗り移った2本塁打であったのだ。「いろいろなもの」とは卒業後の進路である。

「本人がプロでやりたいという希望を持っている。あとは球団の判断になりますが、送り出しても恥ずかしくない打撃。ただ、できるならば、最初からやってくれ!! と……。この春一番の集中力で行け!! と言って、あのバッティングですから。今までちゃんと集中しとけよ!! と」。期待が大きいだけに、叱咤激励も忘れなかった。

 早大のリーグ制覇は2020年秋が最後。前回優勝時は当時2年生の蛭間拓哉(現西武)が慶大1回戦で勝ち越し2ラン、2回戦でバックスクリーンへ逆転2ランを放ち、天皇杯奪取に貢献した。吉納のこの日2本目のアーチは、蛭間のVTRを見るような弾道だった。吉納は2学年上のスラッガーを尊敬し、今春から先輩が着けていた背番号「1」を背負う。

「絶対、明日、優勝します!! 自分が日本一へ導きたいと思います」

 泰然自若。大先輩・徳武氏からもらった言葉を胸に秘め、吉納は早大の勝利のために、神宮の左打席でフルスイングを貫いていく。

文=岡本朋祐
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