勝負強さを備えた打棒
DeNAは5月31日に
牧秀悟が右太腿裏の肉離れから復帰したが、
宮崎敏郎が左足太もも裏の軽い肉離れで6月7日に登録抹消された。役者がなかなかそろわない中で、この助っ人が活躍してもらわなければ困る。来日5年目のタイラー・オースティンだ。
今季は開幕から主に「二番・一塁」でスタメン出場していたが、4月10日の
中日戦(横浜)で二塁にヘッドスライディングした際に右腿を負傷して途中交代。右太腿裏肉離れで戦線離脱した。5月17日から一軍復帰したが、わずか1週間後に再びヒヤリとするプレーが。25日の
広島戦(横浜)で6回に一塁守備でファウルフライを追いかけて好捕したが、カメラマン席に飛び込んで左手首を強打。しばらく立ち上がれず、途中交代した。再び戦線離脱か――。不安がよぎったが幸いなことに軽症だった。
その後も試合に出続け、32試合出場で打率.297、5本塁打、15打点。チャンスで打席が回ってくると頼もしい。6月8日の
ソフトバンク戦(横浜)では3点差を追いかける8回無死一、二塁で、
松本裕樹の147キロ直球を振り抜き、バックスクリーン左へ起死回生の5号3ラン。試合には敗れたが、強烈なインパクトを残した。交流戦でトップタイの3本塁打と調子を上げ、得点圏打率.409と勝負強さを発揮している。
他球団のスコアラーは、「牧、
筒香嘉智、
佐野恵太、故障で離脱している宮崎とDeNAは強打者がそろっているが、一番怖いのはオースティンですね。体の軸がブレず、緩急に崩されないし直球に強い。ケガさえなければ打撃タイトル争いの常連でしょう」と警戒を強める。
故障の多さがネック
能力は申し分ないが、故障の多さがネックで1度も規定打席に到達したシーズンがない。2020年は65試合の出場に終わったが打率.286、20本塁打、56打点をマーク。シーズンをフルに出たら40本塁打を軽々と超えるペースだった。翌21年は107試合出場で打率.303、28本塁打、74打点。規定打席に4打席足りなかったが強力打線の中心となり、東京五輪ではアメリカ代表で銀メダル獲得に貢献した。同年オフに3年契約、4年目の契約オプションは球団が保有の複数年契約を結ぶ。DeNAにとって大きなプラスアルファをもたらすかと思われた大型契約だが、故障に悩まされるシーズンが続く。
22年はオープン戦で右肘の張りを訴え、4月にアメリカでクリーニング手術を受けた。8月に一軍復帰したが右肘の状態が思わしくないため代打での出場にとどまった。38試合出場で打率.156、1本塁打、3打点と期待を裏切る結果に。このシーズンは、チームが球団新記録となる本拠地17連勝を記録し、8月に18勝6敗の快進撃で首位・
ヤクルトを猛追した。最後は力尽きて2位に終わっただけに、「オースティンが万全の状態なら」と悔やんだファンは多かっただろう。
昨年も交流戦でヘッドスライディングをして負傷交代。「右肩鎖関節のねんざ」の診断を受け、6月22日に登録抹消された。その後は一軍のグラウンドに戻ってくることなく、9月下旬にアメリカの病院で右鎖骨遠位端切除術を行った。22試合出場で打率.277、0本塁打、6打点。グラウンドに立てない本人が一番悔しいだろう。
長いペナントを考えて
スポーツ紙デスクは「無事是名馬ということわざがあるように、試合に出続けることは選手の大きな価値です。オースティンは常に全力プレーでそれは素晴らしいことですが、ケガのリスクが大きいプレーを躊躇なく敢行する。試合中のプレーだから不可抗力ではすまされない。長いペナントレースを考えるとケガを未然に防ぐために自重することも重要です」と強調する。
DeNAは交流戦6勝7敗。野球評論家の
小笠原道大氏は、週刊ベースボールのコラムで交流戦の重要性を力説している。
「『143分の18試合』の交流戦ですが、意外やこれがペナントレースの行方に大きく影響を与えます。チーム同士の相性、ピッチャー対バッターの相性……。何もかも、同一リーグ内での対戦とは違います。選手側からすれば、ある意味新鮮でもあり、しかし、一気にペナントレースの流れが変わる可能性もある18試合。交流戦前、1位にいたチームの負けが込んで、5位、6位に転落してしまうかもしれない。逆に最下位だったチームが交流戦を機に息を吹き返し、連勝して一気に上位へ躍り出るかもしれません。特に今、Bクラスにいるチームは、交流戦を大きな分岐点にしてほしいですね」
交流戦は残り5試合。オースティンがポイントゲッターとして稼働し、白星を重ねて借金4を完済したい。
写真=BBM