週刊ベースボールONLINE

大学野球リポート

【大学野球】「初見でこの球を打ってみろ!」宝刀チェンジアップで好リリーフ早大・安田虎汰郎

 

マウンドで冷静にアジャスト


早大の三番手・安田は9回から救援し、10回も無失点に抑え、4対3で逃げ切り。最後打者を見逃し三振でガッツポーズを見せた[写真=矢野寿明]


【第73回全日本大学野球選手権大会】
▼6月15日 準決勝 神宮
早大(東京六)4-3東日本国際大(南東北)
※延長10回タイブレーク

 決勝進出をかけた準決勝は3対3のまま決着がつかず、10回からタイブレーク(無死一、二塁の継続打順)である。早大は10回表に吉納翼(4年・東邦高)の左犠飛で1点を勝ち越した。逃げ切り態勢。10回裏のマウンドに上がったのは、9回裏から救援した1年生右腕・安田虎汰郎(日大三高)だった。

 この守りを迎える直前、一塁側の早大応援席から、自然発生的に「紺碧の空」の合唱が始まった。早大ナインを後押ししたのである。

 東日本国際大は先頭打者がランエンドヒットを仕掛けるも、打者は転がすことができず右飛。二塁走者はすでにスタートを切っており、併殺となった。二死一塁で安田は四球を出す。カウント球であり、ウイニングショットでもある低めのチェンジアップが決まらない。審判員の判定は絶対である。安田は冷静だった。アンパイアを見極め、アジャストに努めた。

「高めから落とした」

 二死一、二塁。カウント2ボール2ストライクからの5球目、最後はやや浮いたチェンジアップだった。球審の手が上がった。安田は見逃し三振に斬り、決勝進出を決めた。

 100キロ台のチェンジアップを駆使する緩急自在の投球が、安田の武器。130キロ中盤のストレートは低めに伸び、球速表示以上の体感速度となる。今春のリーグ戦ではすべて救援6試合で2勝を挙げ、7回1/3を無失点。被安打1と、対戦4校の打者はほとんど、安田のボールをとらえることができなかった。全日本大学選手権でも、その勢いは止まらない。九産大との準々決勝では、9回の1イニングを打者3人で抑えた。そして、迎えた準決勝。3対3と厳しい局面での三番手である。

「先輩方からは『腕を振って、ボールに気持ちを込めれば、打たれることはないから!!』と、背中を押されてマウンドへ向かいました。自分自身としても『初見でこの球を打ってみろ!!』という気持ちでした」

「我慢強い投球を心掛けた」


試合後は先輩2人と笑顔でポーズ。左から3年生・伊藤樹、4年生・吉納、1年生・安田[写真=矢野寿明]


 先発した背番号11の右腕エース・伊藤樹(3年・仙台育英高)は6回途中で降板し、二番手の左腕・香西一希(2年・九州国際大付高)の好救援を受けてのリリーフだった。

「自分も高校時代は先発を務めていましたから、降板する悔しさは理解できる。伊藤さんのためにも、我慢強い投球を心がけました」

 東京六大学リーグでも実証されているように、初対戦で攻略するのは難しい。いくら映像で研究を重ねていたとしても、実際に打席で対戦してみないと分からない。安田の魔球・チェンジアップは、そこまでの決定力がある。仮に狙い球を定めたとしても、フルスイングするのが難しい、独特な軌道なのである。

「高校時代は一つの球種として投げているだけでしたが、大学入学後、意識的な問題ですが、入れたり、抜いたり、操れるようになりました。投球の幅が広がっている」

 これまで関わった人への感謝を忘れない。

「良い星の下に、生まれていると思います」

 記憶力も抜群。一度、取材を受けた記者、カメラマンの顔をすぐに覚え、次のタイミングで会うと「この前はありがとうございました!!」と笑顔で会釈する。律儀な新入生で、コミュニケーション能力が格別に高いのだ。

 リーグ戦を通じて10回1/3無失点。「意識しないようにしています。目の前の打者に集中し、一人ひとりの積み重ねです」。日大三高のエースとして出場した昨夏の甲子園は3回戦で敗退した。「今も夢に出てくるぐらい悔しい思いをした。決勝は負けられない」。

 早大は9年ぶりの大学日本一へ、あと1勝である。対戦する青学大には、日大三高で3学年上の左腕・児玉悠紀(4年)がいる。「伝説の人、です。同じ舞台に立てるのがうれしい」と、目を輝かせた。ブルペン待機する安田は、取り組んできたことを発揮するだけだ。

文=岡本朋祐
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング