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交流戦初優勝の楽天 覚醒した“天才打者”が「二軍の帝王」脱却へ

 

ファームでは格の違う打撃


シャープな打撃で楽天の交流戦初優勝に貢献した渡邊


 楽天が6月16日の広島戦(楽天モバイル)に5対3で勝利し、交流戦13勝5敗、勝率.722で初優勝を飾った。最大借金9を完済したことは大きな自信になっただろう。その原動力になったのが、プロ6年目の渡邊佳明だ。

 今季は開幕二軍スタートだったが、5月10日に一軍昇格。「六番・左翼」でスタメンに抜擢された同日の西武戦(ベルーナ)で、6回二死一、二塁から左前適時打を放つなど猛打賞と期待に応えた。横浜で生まれ育ち、横浜高に進学しただけに、横浜スタジアムは思い入れがある球場だ。29日のDeNA戦(横浜)でマルチ安打をマーク。交流戦でコンスタントに安打を打ち続け、6月16日現在、22試合出場で打率.318。73打席で9三振のみとコンタクト能力が非常に高い。

 他球団の首脳陣は、渡邊佳の能力を以前から高く評価していた。

「ファームでは打撃で格の違いを見せていましたからね。バットコントロールが巧みで選球眼もいい。左打席でのフォルムも含め、バットの出し方、スイング軌道が近藤健介(ソフトバンク)と似ています。一軍ではなかなか力が発揮できなかったけど、良い打者ですよ」

昨年は一軍自己最少の25試合


 新人の2019年に自己最多の77試合出場。得点圏打率は.393と勝負強さを発揮し、20年は35試合出場で得点圏打率.450をマークしたが、その後は一軍に定着できず、存在感が年々薄れていた。昨年はイースタン・リーグで規定打席に47不足していたが、打率.372、出塁率.437で首位打者と最高出塁率に認定された。ただ、一軍では自己最少の25試合出場で打率.143と結果を残せなかった。「二軍の帝王」から脱却へ、今季にかける思いは人一倍が強かった。

 渡辺佳の祖父は横浜高の監督として一時代を築いた渡辺元智氏。松坂大輔涌井秀章(中日)、筒香嘉智(DeNA)、近藤ら球界を代表する選手を輩出した名将だ。「渡辺監督の孫」という視線で注目されることは大きな重圧だっただろう。だが、実力で名を揚げる。1年秋からレギュラーをつかみ、2年夏、3年春と甲子園に2度出場。明大に進学後は4年秋に打率.420で首位打者を獲得するなど、ヒットメーカーとして活躍した。リーグ戦通算90試合出場し、打率.314を記録。楽天にドラフト6位で入団し、祖父の渡辺氏が叶えられなかったプロ入りの夢を果たした。

プロ入り直前に祖父へ誓い


 入団直後の18年12月に週刊ベースボールの対談で祖父と孫の対談が実現。渡辺氏は感慨深い表情でこう振り返っている。

「松坂(松坂大輔、当時中日)が在籍していたときに佳明が生まれた。野球部の合宿所で育ち、小さいころから野球に囲まれ、環境に恵まれていた。練習後に相手をしてやると『これは、すごいセンスをしている!!』と、直感したのを覚えている。しかし、身長が伸びない。シニアの練習を見に行ってもセンスはあるが……。佳明は横浜高校を希望したが『無理だ!!』と猛反対した。でも、佳明は『何が何でも!! ボール拾い、コーチャーでもいい』と強い意志を訴えてきた。ほかの選手には、どんなことがあっても『あきらめるな』と言ってきたわけだから、その信念を曲げることになる。結果3年間、練習を重ねて自分で(レギュラーの座を)つかんだ。そして、明治での4年間を経て、自分にできなかったことをやってくれた。入団会見では私の代わりに成し遂げたというような言葉を、本人の口から言ってくれたので、感無量だった」

 そして、「高校、大学と自分の意志を貫き、周囲にも恵まれた。プロは厳しい世界だが、極端に言えばレギュラー、一軍に昇格できず、二軍に染まるようならば行かないほうがいい。あとは、自分次第。佳明は細かいことでクヨクヨするタイプではないから、後ろを振り向かず、前へ前へ、限られた時間の中で勝負してほしい」とエールを送ると、渡辺佳も固い決意で以下のように誓っていた。

「おじいちゃんにはたくさんのことを教えてもらい、あとは結果で恩返しするだけです。しっかり準備をして開幕一軍、そして、レギュラーを目指して、最終的にはプロの世界で一流と言われている打率3割を打ちたいと思います」

 有言実行で約束を果たせるか。首位・ソフトバンクの背中はまだ遠いが、チームを勝利に導く一打を打ち続けて白星を重ねたい。

写真=BBM
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