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プロ野球現場広報は忙しかった。

「10.8」決戦の夜は大混乱! 翌日、寝過ごしてしまった記者はデスクに大目玉を食らった/香坂英典『プロ野球現場広報は忙しかった。』

 

 元巨人軍現場広報の香坂英典氏の著書「プロ野球現場広報は忙しかった。」がこのたび発売! その内容を時々チョイ出しします!

長嶋監督と青木さんに冷や汗


『プロ野球現場広報は忙しかった。』表紙


 長嶋ジャイアンツの伝説と言えば、なんと言っても1994年『10.8決戦』だ。

 以下はそれに触れた部分のチョイ出し第3弾、巨人が優勝を決めたあと、マスコミへの優勝対応の話だ。

 前回は「分刻みのスケジュールに合わせて、時間厳守で出演者をスタジオに送り込まなければならない。これが大変なのだ」で、続きとさせてもらった。

 スタジオ出演の前には「ビール掛け」という選手たちが待ちに待った最大の儀式がある。出演の対象となる選手を切りのよいところで会場から呼んできて、いや、引っ張り出してきてスタジオに送り込むのだが、優勝の歓喜の中、ビール掛けに没頭している選手は言うことなんて聞きやしない。

 幸い10.8の夜のメディア対応は比較的スケジュールどおりこなせたが、少しだけヒヤリとしたことがあった。

 一番最初に行われるテレビ生出演はテレビ東京だった。ここは長嶋茂雄監督一人での出演だ。

 監督はビール掛け会場から余裕を持って退出。着替えなど出演の準備も完了し、ホテル内の特設スタジオのドアの前に差し掛かった。入り口では巨人担当ディレクター、女性アナウンサーらが立礼で監督を迎える。

 生出演約5分前、そのとき……。

「監督! おめでとうございます!」

 一人の紳士が監督を呼び止めた。プロゴルファーの青木功さんだった。「いやー! どうもありがとうございます」。監督も青木さんの祝福に満面の笑顔、2人は固く握手を交わし、スタジオの入り口で楽しそうに歓談が始まった。

 その瞬間、テレビ東京関係者は固まった。僕も監督付広報・小俣進さんも目が点……。1分、2分と時計の針が進んでいく。話を聞いていると、終わりそうな雰囲気がない。

 生放送、大丈夫だよな……。そこにいた皆がそう思っていたはずだ。だが、「それじゃ、これから収録があるんで」と監督が歓談を切り上げ、スッとスタジオ内に移動した。

 一同ホッ、時間はピッタリ。長嶋監督の体内ストップウオッチは極めて正確だった。

 深夜までかかった僕の仕事は滞りなく終了する。この間、食事も取れず、勤務中だから当然ビールの一杯も飲んでいない。でも、そこにはなんとも言えない達成感があった。僕らもとりあえず、きょうはゲームセットだ。

 疲れた……。早く床に入りたい……。

 翌日、ジャイアンツは凱旋帰京。名古屋駅、東京駅には多くのファンが押し寄せ、ここでも「国民的行事」の決戦を制した巨人軍フィーバーが起こっていた。前夜の勝利の美酒に酔った選手たちも朝はつらかっただろうが、移動の新幹線に乗り遅れるやからもおらず、一同が帰途に就いた。

 このフィーバーを原稿にしなければならない巨人担当記者たちも、「箱乗り」と言ってチーム移動と同じ新幹線に乗って追い掛ける。

 しかし、こともあろうに担当記者の数名が寝過ごしてしまった。記者も、この伝説となる一戦を報じる大きな任務に注力し、達成感から、そのまま夜の街に繰り出し、飲み過ぎてしまったのだろうか。

 その記者たちがデスクに大目玉を食らったのは言うまでもない。

 デスクは言ったそうだ。

「お前たちが優勝したわけではない」

 勝ったほうが優勝……、すごい戦いだった。(10.8の項終わり)
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