週刊ベースボールONLINE

HOT TOPIC

ゴールデン・グラブ賞と無縁が不思議 巨人の「守備の名手」が不可欠な存在に

 

勝利に導く好プレー


二塁で好プレーを連発している吉川。チームに欠かせない存在だ


 チームを救う好守は決勝打に劣らない価値がある。二塁で替えの利かない存在になっているのが、巨人吉川尚輝だ。

 身体能力の高さには定評があったが、プレーの精度も確実に上がっている。打球に対する反応が早く、球際に強い。6月15日の日本ハム戦(エスコンF)では、0対0の7回一死で田宮裕涼がはじき返した鋭い打球が右翼方向へ。吉川は後方に下がりながらタイミング良く飛んで捕球した。日本ハムファンからもどよめきが起きるプレーで、相手に流れを渡さない。9回に岡本和真が左中間へ決勝2ランを放ち勝利をつかんだ。

 28日の広島戦(東京ドーム)でもビッグプレーを見せた。同点で迎えた延長10回二死一、三塁で上本崇司のセンターに抜けようかという打球を逆シングルで捕球。その体勢のまま二塁に送球し、一塁走者・野間峻祥をアウトにした。上本が驚きの表情を浮かべたのも無理はないだろう。美技で勝ち越しを防ぐと、その直後に丸佳浩がサヨナラ弾を放った。

 昨年は132試合出場で打率.256、7本塁打、36打点、4盗塁。殻を破り切れていない印象があった。吉川の能力を考えれば打率3割は達成可能な数字だし、20盗塁をクリアできる。阿部慎之助監督は奮起してもらいたい思いが強かったのだろう。開幕前に一塁・岡本和、三塁・坂本勇人、遊撃・門脇誠のレギュラー起用を明言したが、吉川の定位置を確約しなかった。

 シーズンが始まると思い描いた構想の変更を余儀なくされる。プロ2年目の門脇は打撃の状態が上がらず、5月下旬からスタメンを外れる機会が増える。三塁にコンバートされた坂本も61試合出場で打率.234、4本塁打、18打点と精彩を欠いた。得点圏打率.179と持ち前の勝負強さを発揮できず、6月26日にファーム降格となった。

 その中で首脳陣の評価を上げたのが、吉川だった。開幕当初は八番だったが、しぶとい打撃で4月下旬以降は三番に入り、その後もチーム状況に合わせて五番、二番と重要な役割を任せられている。好守を見せた6月28日の広島戦で、1点差を追いかける5回二死三塁で右中間フェンス直撃の同点適時三塁打。続くヘルナンデスの遊撃適時内野安打で本塁に生還した。

常勝軍団には名二塁手


 課題の打撃でも成長の跡を見せ、守備力は申し分ない。他球団のスコアラーは「ゴールデン・グラブ賞を獲得したことがないのが不思議なぐらい。二塁での守備力は球界トップクラスです」と評する。

 高い壁として立ちはだかったのが、菊池涼介(広島)だ。2013年から二塁で歴代最多の10年連続ゴールデン・グラブ賞を受賞。その牙城を中野拓夢(阪神)が崩した。遊撃から二塁にコンバートされた昨年に初受賞。投票結果を見ると110票で、2位・菊池の107票とわずか3票差だった。吉川は3位で70票。阪神は捕手・坂本誠志郎、一塁・大山悠輔、二塁・中野、遊撃・木浪聖也、外野・近本光司と5人が獲得した一方で、巨人からは8年ぶりに1人も選出されなかった。

巨人時代に二塁手で4度、ゴールデン・グラブ賞に輝いている仁志


 新聞記者による投票のため、印象度が左右する点は否めない。吉川も一度受賞すれば、その後に何年も連続で獲得する可能性が十分にある。二塁は奥深いポジションだ。かつて巨人の名セカンドとして活躍した野球評論家の仁志敏久氏は、週刊ベールボールの取材でこう語っている。

「難しい打球をいかにアウトにするか。そのための選択肢の多さが良い二塁手の条件だと言えます。そもそもセカンドというのは、捕球するために動く方向と、一塁へ送球するために動く向きが異なることが、ほかよりも多い。例えば、二遊間の打球なら右に動いてから左に体を切って一塁へ送球。一、二塁間なら左に動いて捕球をするものの、一塁に対して角度が付くので、体を右に反転させなければいけません。つまり、捕球→送球の一連の流れを作りにくいのです」

「そこで求められるのが、送球を考えた体勢で捕球すること。それも瞬時に判断する必要があります。『捕り方は投げ方』というのが僕の考え。捕球と送球は連動しており、送球の技術が高ければ少々、無理な体勢で捕球してもアウトにすることが可能になる。選択肢が多くなり、幅が広がるのです」

 常勝軍団には、二塁に名手がいる。今後も吉川の守備に要注目だ。

写真=BBM
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング