元巨人軍現場広報の香坂英典氏の著書「プロ野球現場広報は忙しかった。」がこのたび発売! その内容を時々チョイ出しします! 即席ヘアメークに

『プロ野球現場広報は忙しかった。』表紙
1998年オフ、著者が巨人の現場広報の話。新人・
高橋由伸が「プリンス」とも「ウルフ」とも呼ばれていた時代です。
入団初年度から即戦力として活躍した由伸に、当然シーズンオフは各方面からのさまざまなオファーが殺到した。
その一つ、警視庁からの依頼であった「一日通信指令本部長」のアテンドを務めた。
由伸を桜田門にある警視庁正門に車で向かわせ、僕は事前に現地に到着。警視庁関係者が警視庁正門前に整列して由伸を出迎える列の端に立った。
「おはようございます」
正門前で車から降り立った由伸を見て、あぜんとした。
き、金髪……? 通信指令本部長ほか、お出迎えいただいた警視庁の方々の顔を見ると、僕以上にあぜんとした表情だ。
庁内の応接室に案内され、あいさつを済ませ、用意された一日通信指令本部長の制服と制帽を僕が受け取り、着替えのために控室へ。
入室した僕の第一声は
「オイ、ノブ、いくらなんだって金髪はないだろぉ」
だが、由伸は到着のときからうれしそうで、「何がですか」という返事。
「その頭でやるつもりじゃないだろうなぁ」
と聞くと、自分のカバンから何かを取り出し、僕の目の前に差し出した。
黒色の髪染め用のスプレー缶だった。なるほど……。ホッとし、胸をなで下ろしていると、「ほら、香坂さん何してんの。早く……」とスプレー缶を僕の目の前に近づける。
「え? 俺がやるの?」と言うと、由伸は「じゃ、ほかに誰がいるんですか」とずいぶん偉そうな言い方をして笑った。
なんだ、コイツ、ずいぶん人使い荒いなぁなどと思いながら仕方なくスプレーを手にする。こんなことはやったことない。変なプレッシャーを感じながらスプレーを吹き掛けた。
でも、やはりハミ出した。よく見ると、襟足、こめかみの辺りに点々と黒いスプレーが飛び散っている。僕は「ま、いっか」と笑顔でごまかし、任務? は完了。
通信指令本部長ほか、皆さんが待つ部屋に戻ると、警視庁関係者の方々は由伸の髪の毛を見てホッとした様子で僕たちを迎えてくれた。
関係者の方が僕の耳元で「高橋さんの髪、どうされたんですか」と聞くので、「水溶性のスプレー缶を高橋が用意してきました」と言うと、その方は「そうなんですか、さすが高橋さんですね」といたく感心していたが、僕は「何がさすがなんだろう」と考えてしまい、おかしくて笑いをこらえるのが大変だった。