判定が覆らなくても
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6回表のプレーをめぐり、横浜高は何度も伝令を送り、審判団に説明を求めた。左端は横浜高の二塁手・奥村凌[写真=BBM]
【第106回全国高校野球選手権神奈川大会】
7月20日 サーティーフォー保土ヶ谷球場
▽準々決勝 横浜高9−2桐光学園高
(7回
コールド)
また一つ、壁を越えた。
横浜高が3対0でリードした6回表、桐光学園高は反撃を開始する。5回終了のグラウンド整備とクーリングタイム。ゲームの流れがよく変わるタイミングである。一死二、三塁から中里心温(2年)の適時打が飛び出した。なおも、一、三塁から二ゴロ。併殺コースだったが、横浜高の二塁手・奥村凌大(2年)が一走・中里にタッチした際に衝突。胸付近を痛めた奥村凌は一塁送球ができなかった。
この間に、三走・中川拓海(3年)が生還し、1点差とされた。一連のプレーではあったが……。横浜高サイドは「守備妨害」をアピール。一塁ベンチの横浜高・村田浩明監督は複数の登録選手を介して、審判団に何度も説明を求めたものの、判定は覆らなかった。
「よみがえりました」(村田監督)
昨夏の神奈川大会決勝(対慶応高)である。2点リードで迎えた9回表無死一塁。二ゴロで「4−6−3」の併殺かと思われたが、遊撃・
緒方漣(国学院大)が二塁ベースを空過していたというジャッジにより、無死一、二塁。伝令を通じての確認も認められなかった。その後、走者を進められ一死二、三塁から逆転3ランを浴びた。横浜高は5対6で敗退し、目前で甲子園出場を逃している。
同じ轍は踏まない。
「昨夏は『エッ!!』と心の整理がつかない間にホームラン……。以降、最後までやり抜いて勝つ、とやってきた。『俺も戦っているんだぞ!』という姿勢を見せた。選手たちは、そこで、スイッチが入りました」
この場面でどう、気持ちを切り替えたのか。村田監督は続ける。
「審判員さんはリスペクトしていますし、最終判断です。選手たちには『納得して、勝つしかないんだから!』と。昨秋の決勝では4点リードから桐光学園さんに負けており(9回表に13対13とされ、延長10回タイブレークで14対15)『ダブル雪辱だ!!』と言ってきました。苦い思いをしているので、もう負けられない思いでした」
「熱く、熱く、熱く行け!! 燃え上がる炎のように。でも、頭の中は冷静に!!」。村田監督の指導の下、集中力を研ぎ澄ました6回裏、横浜高は一挙6得点で完全に主導権を握った。9対2。7回表の桐光学園高の攻撃を無失点に抑え、7回コールドが成立した。
「流れを変えてくれる選手」
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2年生主将・阿部がチームをけん引。一塁ベンチで腕を組んで指揮する村田監督から絶大な信頼がある[写真=BBM]
チームをけん引したのは、同校史上初と言われる2年生主将・阿部葉太だ。桐光学園高・野呂雅之監督は「機能させない」と一番打者を相当、警戒していたが4打数4安打と、すべての打席で出塁を許した。
「流れを変えてくれる選手。阿部がダメなときは、すべてダメ。良いときは、理想の流れになる。(2年生の)阿部を主将にして不安はありましたが、一番良いものを出してくれる。僕の思いが伝わってきたのか、よくやってくれました」(村田監督)
阿部が存在感を見せるのは、バットだけではない。桐光学園高に1点差とされた6回表二死一塁からセンター前への鋭いライナーを、中堅手・阿部がダイビングキャッチ。仮に捕球できなければ、同点となっていたかもしれない超スーパープレー。守りでもペースをつかめる万能選手である。
「自分たちがやってきたことが正しいと証明できている。ここで終わりではない。成長できる機会を与えてくださっている。(準決勝から2試合)ここからが、さらに厳しくなるので……」。村田監督は手綱を締めた。
球場で観戦した横浜高の名将・渡辺元智元監督は、異例の「2年生キャプテン」について、こう言及した。
「私の時代? あり得ないですよね(苦笑)。(2年生ではなく)私ならば、主将なしにしていますね。3年生全員が主将のつもりでやれ、と。春までの主将である(四番で捕手の)椎木(卿五、3年)が2年生・阿部をサポートしている姿が見受けられ、何か、良い方向に向かっているのではないか、と見ています」
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横浜高の1年生右腕・織田は6回途中2失点と好投した[写真=BBM]
この試合、1年生右腕・織田翔希が6回途中2失点に抑え、エース左腕・奥村頼人(2年)を挟み、7回表二死三塁からは遊撃手の1年生・池田聖摩を三番手に投入。試合を締めた。
「池田は勝ち気がある。全身全霊でやってくれるので……。普通では、ショートからの救援はあり得ないですが、勝ちたい意欲がある選手。期待に応えてくれました」
先発オーダーの内訳は3年生3人、2年生3人、1年生3人。横一線の競争により決まった20人の登録選手は、実力主義である。村田監督は春の県大会以降、チーム力アップのため「2年生主将」という「劇薬」を投じたが、3年生が理解を示し、バックアップしている。指導者と生徒の信頼関係なくして、実現できない。2年ぶりの甲子園まであと2勝。準決勝は春の優勝校・武相高と対戦する。
文=岡本朋祐