解説者も絶賛のピッチング

試合中には気合の入った表情も見せる
今、日本で最も攻略が困難な投手の名前を挙げるなら、この右腕ではないだろうか。12試合登板で7勝1敗、防御率0.52。規定投球回数には7イニング足りないが、抜群の安定感を誇る。
今年は投球フォームで試行錯誤し、状態が上がらなかったため開幕二軍スタートに。4月28日に一軍昇格した際は、本来のパフォーマンスを取り戻しているか心配されたが、杞憂に終わった。クォリティスタート(先発投手 が6イニング 以上を投げ、かつ3自責点以内)率が91.7%。ハイクオリティスタート(先発投手が7イニング以上を投げ、かつ自責点2点以内)も75%と驚異的な数字をたたき出している。
6月28日の
DeNA戦(バンテリン)から26イニング連続無失点。7月5日の
広島戦(バンテリン)は4安打に封じ込め、99球で今季初完封勝利を飾った。野球評論家の
荒木大輔氏は週刊ベースボールで投球内容を絶賛している。
「最速156キロのストレートにスプリット、カットボール、
ナックルカーブのどれも制球力が抜群。すべての球種がカウント球にも勝負球にもなるキレ味を誇っていました。テークバックの小さいショートアームが特徴。スリークオーター気味の位置から鋭い腕の振りによって投じられるストレートに、打者はタイミングが合わずに差し込まれてしまう。回転量の多いキレのある球質ではなく、ズドンと重みのあるように感じるストレートは攻略困難ですね。加えて140キロ台後半のスプリットがある。打者にとってストレートと見分けがつけづらく、簡単に手を出して空振りしてしまうでしょう」
「特に五番・
坂倉将吾選手に対する投球は圧巻でしたね。第1打席はストレート、ナックルカーブで追い込むと内角高めへのストレートで見逃し三振。第2打席は外角低めへ2球続けてスプリットを投じて見逃し、ファウル。そして3球目も外角低めへのスプリットで空振り三振でした。第3打席はナックルカーブ、カットボール、スプリットでボール、見逃し、空振りでカウント1-2とすると、最後は真ん中低めのスプリットで空振り三振。3打席連続三振でしたが、すべて配球パターンも変えて、好打者である坂倉選手を翻弄しました」
投げるごとに増すすごみ
登板を重ねるたびにすごみが増していく。7月12日の
阪神戦(バンテリン)で8回3安打11奪三振無失点。19日の
巨人戦(バンテリン)も8回4安打12奪三振無失点で今季7勝目をマークし、
阿部慎之助監督が「脱帽です」と白旗を上げた。一方で、高橋宏は謙虚だ。お立ち台に上がると、「(先制アーチを放った)細川(
細川成也)さんが一発打ってくれたので楽にマウンドに上がることができましたし、すべて細川さんのおかげです。ありがとうございました」、「本当に加藤(
加藤匠馬)さんが長くリードしてくれたので、しっかりと投げ切れたかなと思います」とチームメートに感謝の念を口にしていた。
次元が違うレベルの変化球
他球団の打撃コーチは、高橋宏のすごさをこう分析する。
「変化球の質が他の投手と違う。もちろん直球もすごいが、140キロ近いカットボール、スプリットが途中まで直球と同じ軌道で来るので対応が難しくなる。速い球に照準を合わせると、ナックルカーブで緩急をつけてくるのも厄介です。昨年までは抜けた球が見られたが、今年は制球力も良くなっているので四球で崩れることもない。ちょっと次元が違いますね。今、日本で最も攻略が難しい投手だと思います。
オリックス時代に対戦した
山本由伸に近い感覚ですかね。2点を取られたら厳しくなる」
中日は先発陣が盤石と言えない。
柳裕也、
大野雄大、
涌井秀章と実績ある投手たちがファームで調整し、計算できる投手が少ない。後半戦最初のカードなった阪神戦は同一カード3連敗で借金は今季ワーストの11に。28日の同戦では9回に2点ビハインドを追いついたが、延長11回に守護神の
ライデル・マルティネスが
森下翔太にサヨナラ適時打を浴びて力尽きた。
ヤクルトと入れ替わり、最下位に転落。負けられない試合が続く中、高橋宏は名実共にエースとなれるか。
写真=BBM