週刊ベースボールONLINE

高校野球リポート

【高校野球】プレー中に喜怒哀楽を見せない早実・宇野真仁朗 父と交わした10項目の約束

 

スカウト注目の“右の強打の遊撃手”


閉会式で優勝旗を受け取る早実の主将・宇野。精悍な顔つきである[写真=菅原淳]


【第106回全国高校野球選手権西東京大会】
7月28日 決勝 神宮球場
▽早実10x-9日大三高

 早実が9年ぶり30回目となる夏の甲子園を決めた。「昨秋の新チームが始まったときから甲子園を目指してきて、最高の気分です」。主将・宇野真仁朗(3年)は達成感を語りながらも特別、感情を表に出すことはなかった。

 1回裏には中堅右へ先制適時二塁打。宇野は今春から完全移行された新基準の金属バットではなく「飛距離が出る」と、春の東京大会から木製バットを使用している。鋭い当たりはかなり、伸びた。「あと1勝で甲子園」という大一番でも、冷静沈着。二塁ベース上では、何事もなかったかのように、次のプレーへ準備をしていた。

 持ち前のパワーとコンタクト率により、木製バットで春の東京大会で3試合連続弾を放つと、今夏も日本学園高の4回戦と国学院久我山高との準々決勝で2戦連続アーチと、高校通算64本塁打とした。NPBスカウトが注目する、右の強打の遊撃手だ。宇野は外野のフェンスをオーバーしても、淡々とベース一周する。余韻を楽しむどころか、いち早く生還して、ベンチに戻り、戦況を見守る

 なぜ、プレー中に喜怒哀楽を見せないのか。そこには、早実への入学前に、父と交わした10項目の約束があった。

[1]攻守交代は全力疾走で行う(その走る姿を強く、美しく)
[2]四球のときはバットを投げない
[3]四球のときは全力で 一塁に走る
[4]ホームランのガッツポーズはサヨナラだけにする(自分の価値を落とさない)
[5]捕手からの返球カバーを真剣に行う
[6]審判の判定に対しては、一切態度に出さない
[7]相手の好プレーを心でたたえる。そうすると自分に運が向いてくる
[8]グラウンドが荒れてきたら自分の手でならす
[9]試合が始まったら早くユニフォームを汚す。いつも意識をグランドの近くに
[10]勉強を野球の言い訳にしない

野球一家に育って


 宇野は野球一家に育った。父・誠一さんは桐蔭学園高(副将)で内野手、獨協大(主将)で捕手、内野手として活躍した。大学卒業後は社会人野球のリクルート、ローソン、フェデックス、WIEN94でマネジャー、コーチ、監督を歴任。現在は宇野が中学時代にプレーした市川シニアで監督を務める。

 長男・隼太朗さんは桐蔭学園高でプレー。外野手の次男・竜一朗さんは早実を経て、現在早大4年生で、学生コーチとして今春のリーグ優勝、全日本大学選手権準優勝に貢献した。

 三男・宇野は小学6年時に侍ジャパンU-12代表に入り、チームは3位で、ベストナイン(外野手部門)を受賞。日の出中時代に在籍した市川シニアではシニア日本代表と、エリート街道を歩んできた。当時は本塁打を打つたびに、ガッツポーズしていたという。だが、勝負をしにいく名門・早実では野球人としてだけではなく、人としての幅も必要。謙虚な姿勢を持ち続ける。それが10カ条の原則だ。

「父は野球に対して、豊富な知識があり、尊敬しています。技術的な部分だけではなくて、考え方、ルールなど、グラウンド外のことでも学ぶことは多いんです」

金属バットよりフィットするという理由で、春から木製バットを使用。公式戦で春、夏を通じ5本塁打と順応性がある。今夏は背番号5を着けたが、チーム事情で遊撃を守り、軽快な動きを見せた[写真=菅原淳]


 親であり、野球の指導者だった父に敬意を表す。試合中はアンパイア、相手チームをリスペクトする思いが心の奥底にあるから、気持ちの浮き沈みがない。決勝後、過去に激戦を繰り広げてきた歴史がある日大三高について問われると、宇野はこう言った。

「日大三高さんでなければ、こんな決勝はできなかった。感謝の気持ち。試合をやっている中で野球に対する熱い思いを感じた。その思いを背負って、甲子園でもプレーしたい」

 家族への「恩返し」もできた。父・誠一さんは高校1年夏に甲子園出場。アルプス席で当時のエース左腕・志村亮(のち慶大)ら先輩を応援した。子どもたちに託した甲子園の夢。長男、次男が届かなかった大舞台に、三男がラストチャンスでつかんだのである。誠一さんにとって、高校野球に携わった最初と最後に、甲子園との縁が生まれたのである。

 宇野の自宅は千葉県内にある。学校は東京都国分寺市内にあり、授業を終えた後、野球部員は八王子市内のグラウンドへ移動する。宇野は母・博子さんとグラウンドの近くで生活。食生活ほか、サポートへの「感謝」は言葉では言い尽くせない。

 高校3年間、誰からも応援される「宇野真仁朗」という、選手像を確立した。次なるステージは甲子園。1905(明治38)年創部の伝統校をけん引する主将・宇野のプレーはもちろんのことだが、その所作にも注目である。

 2024年の早実野球部のチームスローガンは「頂戦 この一瞬にすべてを懸ける」。西東京の頂は手にした。次なる目標は言うまでもなく18年ぶりの全国制覇。主将・宇野ら3年生は、斎藤佑樹(元日本ハム)を擁して悲願の夏の甲子園初優勝を遂げた2006年生まれ。何かの縁を感じずにはいられない。

文=岡本朋祐
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング