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【社会人野球】25年から活動再開する日産自動車が求めた新たな人材の「基準」

 

選手を集める上での気づき


2025年から活動を再開する日産自動車は8月1日、新たなユニフォームを発表した。左がビジター[四之宮洋介コーチ]で右がホーム[伊藤祐樹監督]である。用意されたのは背番号「23」。2人で「2[日]3[産]」のポーズを取った[写真=BBM]


 都市対抗2度、日本選手権1度の優勝を誇る社会人野球の名門・日産自動車が2025年1月、活動を再開する。1959年に創部し、数々の実績を残してきたが09年限りで休部。16年ぶりに球音が戻ってくるが体制、人員、施設に至るまで、すべて一から整えなければいけない。同社内に「硬式野球部復活準備プロジェクト」が設置されグラウンド、室内練習場、クラブハウス、住環境など、プレーする上であらゆる準備を急ピッチで進めている。

 野球部、そして、将来的な会社の「宝」となっていく「採用」が、最も大事な仕事である。

 8月1日に新ユニフォームが発表された。チームを指揮するのは伊藤祐樹監督(福井工大)で、指揮官をサポートするのは四之宮洋介コーチ(青学大)。伊藤監督は現役時代に「ミスター日産」と呼ばれ、自チームにとどまらず、社会人日本代表でも主将を務めた。日産愛にあふれており、だからこそ、採用には相当、気を使った。初年度は22人でスタートするが、すでに20人が内定しているという。新たな日産の人材に求めた「基準」はこうだ。

「一生懸命やっている選手です。その中でチームを背負っている中心選手。指導者からもヒアリングしながら、もっと言えば、野球に対する熱意、情熱がある選手。野球に限らず、普段からの取り組み、生活態度をリサーチした上で、実際にプレーを見させていただきました。現場で選手本人と話ができなかった場合には後日、リモートで面談。何を考えて活動しているのかを聞きました」。技術としては当然、高い能力を有しているほうが望ましいが、人間性もじっくりと見極めたのである。

 選手を集める上で、一つの気づきがあった。

「チームづくりを考えるにあたって、全員新卒でスタートするのは良いんですけど、われわれが野球を教える部分においても問題はない。ただ、具体的にシミュレーションしていくと、現場レベルで社会人野球の動きとして成り立つのか、ちょっと不安なところもありました。細かい部分ですがユニフォームの着方、ウォーミングアップの仕方……。社会人野球の中で気にしないといけないところがあるんです。まだ決まっていませんが、1人ないし2人、経験者を入れてもどうかと考えています」

 初年度の取り組みが、日産自動車としての「文化」になっていく。チームを預かる指揮官としては、最も気を使う分野である。投手コーチを一人採用し、指導スタッフは3人。初年度は専用グラウンドの完成が間に合わないため、活動拠点近隣の横須賀スタジアム、DeNAの練習場などを転々とする予定だ。

一変する西関東地区の空気


記者会見場の後方には過去のユニフォームと、都市対抗2度、日本選手権1度の優勝旗レプリカが飾られた。2025年から新たな歴史の1ページを刻んでいく[写真=BBM]


 日産自動車は25年シーズンから参戦していくわけだが、報道陣から具体的な目標を問われると、伊藤監督は「都市対抗出場です」と即答した。西関東地区はENEOS、東芝、三菱重工Eastと社会人トップレベルのチームがいる。「今年は三菱重工Eastさんが第1代表で、第2代表のENEOSさん、そして(予選敗退の)東芝さんと全国屈指の強豪がいる中で、日産のフレッシュなチームが挑んでいく構図になりますが、全力でぶち当たっていく」。24年までは西関東地区の代表決定リーグ戦で、出場2枠を3チームで争う展開が続いた。25年も出場枠の変更がなければ、4チームで2枠と、競争はさらに激化するはずだった。

 しかし、状況は変わった。今夏の都市対抗で三菱重工Eastが初制覇。黒獅子旗を奪取した社会人王者は、次年度は予選免除で「推薦出場」の権利が得られる。つまり、来年の西関東予選で三菱重工Eastは不在である。

「3チームを相手しないといけないところが、2チームに。私が勝手に思っているだけかもしれないですけど、(日産自動車に)風が吹いているんじゃないかと、勝手に思っています(苦笑)」

 伊藤監督の横で聞いていた四之宮コーチは「三菱重工Eastさんが優勝された都市対抗決勝を東京ドームで見させていただきましたが、あらためて、西関東を勝ち上がる難しさを感じています。ENEOSさんは相変わらず、ENEOSさんらしい野球をされていますし、(今年は都市対抗を逃した)東芝さんも、若手がどんどん成長している。枠は一つ変わったかもしれませんが、来年、そこに自分たちが立ち向かっていける、予選を味わえることにワクワクしています」と、背筋を伸ばした。

 伊藤監督にあらためて、質問をぶつけた。「目指すは、西関東の第何代表ですか?」と。

「どちらでも良いですが(苦笑)、第1代表を狙って頑張りたい。簡単に『惜しかったな……』とかは言いたくない。勝ち切りたい」

 日産自動車が参戦すれば、明らかに西関東地区の空気は一変する。切磋琢磨していく中で、さらなるレベルアップが期待できる。「選手はものすごく楽しみです」。伊藤監督がその目で見て、プレーだけでなく、人としても惚れ込んだ人材である。かつて日産自動車の伝統として根付いていた熱があり、圧があるチームへと、どう仕上げてくるのか。熱血指揮官が率いる活動再開元年から目が離せない。

文=岡本朋祐
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