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プロ野球現場広報は忙しかった。

記者監禁に甲子園の“暴力球”、汚点を残したバルビーノ・ガルベス/香坂英典『プロ野球現場広報は忙しかった。』

 

 元巨人軍現場広報の香坂英典氏の著書「プロ野球現場広報は忙しかった。」がこのたび発売! その内容を時々チョイ出しします!

まるでジキルとハイド


『プロ野球現場広報は忙しかった。』表紙


 今回は著者が巨人の現場広報時代のガルベスの話だ。超お騒がせ助っ人だった。

 巨人軍の球史に汚点を残したヤツもいた。

 バルビーノ・ガルベスだ。台湾球界にすごい投手がいるという触れ込みで来日。

 まぁ、触れ込みというのは大体すごいヤツと言うものだが、1996年の春季キャンプにテストで来たガルベスは本当にすごかった!

 ブルペンでのブルペンでのボールを見た僕は、2ケタは絶対勝てるとすぐに思った。

 そのまま入団、同年のリーグ制覇、メークドラマに斎藤雅樹とタイの16勝の数字を挙げ、最多勝を飾って貢献した。

 突如現れた助っ人は「カリブの怪人」と騒がれ、テレビや雑誌に取り上げられた。取材申し込みも件数が増え、僕は忙しくなった。ガルベスは見た目とは違い、実は気が小さく、思いどおりいかなかったり、カッとすると豹変することはあったが、普段はどちらかというとおとなしく笑顔の多い礼儀正しい男だった。

 しかし、注目を浴び、騒がれるようになると、よからぬ態度が頻繁に見られるようになり、傲慢な言動が僕を困らせるようになる。取材の約束を忘れることが多くなり、約束は覚えていても「きょうはそんな気分ではない」とドタキャンすることがあった。

 長い間、広報担当者として働いてきたが、気が乗らないと言って、取材の約束をしているにもかかわらず、先方にお引き取り願ったことなど、後にも先にも一度もない。自らがホームランを打ち、勝ち投手になったときなどは優等生発言をするが、その裏では気持ちが不安定で、わがまま発言を連発した。

 迎えたオリックスとの日本シリーズ、とうとう危惧していた事件が起きた。

 グリーンスタジアム神戸で行われる第4戦の試合前、ガルベスがスポーツ紙の記者をベンチ裏のトイレに監禁したのだ。通訳も連れ、トイレのドアを締め切った。僕は狭いトイレ前の通路に詰め掛けるカメラマンたちをかき分け、トイレ内にいるガルベスに叫んだ。

「何をやっているんだ! 出てこい。出てきて話し合おう!」

 何度も叫んだが、返事はなかった。通路付近は報道陣が鈴なり状態。グラウンドでは試合前の打撃練習が行われているが、それどころではなかった。

 駆け付けた中村清昭広報部長が「お前はグラウンドを仕切れ、ここは俺に任せろ」と僕に言って、自らがトイレの前に立った。10分ほどでガルベスは中村広報部長の説得に応じ、記者を解放した。異性との同伴報道に激怒し、当該紙の記者を捕まえるとトイレに監禁したということだった。

 ガルベスはその後、中村広報部長の厳重注意に大きな背中を丸め、何度も謝罪の言葉を繰り返していた。まさにジキルとハイドである。

 日本シリーズ中に起こった前代未聞の監禁騒動……。ガルベスに弁解の余地はない。

 1998年7月31日、またしてもガルベスは暴走する。甲子園の阪神戦で、判定を不服とし、なんと審判に対してボールを投げつけるという暴挙に出る。この混乱の最中、チームメートの制止も振り切り大暴れをし、体を張って止めに入った捕手の吉原孝介にヒジ打ちを浴びせケガを負わせてしまった。

「口の中を3針を縫いました。でも、あそこは止めないとね。清原(清原和博)さん、石井(石井浩郎)さんと3人で止めに入ったんですけど、運悪くやられたのは俺でした」(吉原)

 チームメートに手を上げるとは言語道断だ。長嶋監督は謝罪の意を表し、帰京すると自ら頭を丸めた。
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