菅野の復活を下支え

首位争いをするチームで存在感を発揮している小林
首位争いを繰り広げる
巨人。大きな原動力になっているのが、完全復活した
菅野智之だ。
今季17試合登板で11勝2敗、防御率1.89。抜群の安定感で複数の投手タイトルを狙える位置につけている。忘れてはいけない存在が
小林誠司だ。菅野が今季登板した全試合で先発マスクをかぶっている。スポーツ紙記者は「菅野がコンディションを取り戻し、投球の精度が上がっていることは間違いないですが、配球面の組み立てや声掛けなど女房役として支えている小林の貢献度が非常に高い」と評価する。強い絆で結ばれている同学年の2人は勝負所の夏場も不可欠な存在だ。
小林は
阿部慎之助監督の就任が野球人生の転機になっている。かつては正捕手として活躍し、2016年から3年連続リーグトップの盗塁阻止率をマーク。17年のWBCでは侍ジャパンの正捕手として全7試合でスタメン出場し、準決勝・アメリカ戦では
アダム・ジョーンズの盗塁を阻止した。打撃面でもチームトップの打率.450、1本塁打、6打点の好成績を残し、捕手としての評価を高めた。
だが、その後は打撃で結果を残せなかったことから出場機会が減少。
大城卓三に正捕手を明け渡す形となり、一軍定着もままならなくなった。そして、絶対的エースとして君臨していた菅野も陰りが見え始める。21年は6勝に終わり、昨年は自身最少の14試合登板で4勝8敗、防御率3.36。投球回数は77回2/3とプロ入り後初めて100イニングに到達できなかった。

7月28日のDeNA戦では菅野[左]を3年ぶりの完封勝利に導いた
現役時代に球界を代表する捕手として活躍していた阿部監督は、バッテリーの重要性を誰よりも感じている。菅野の復活に、小林の力が必要と判断したのだろう。近年はバッテリーを組むことが少なくなっていたが、「菅野専属」ともいえる起用法が最高の結果に結びついている。35試合出場で打率.163、1本塁打、6打点と打撃面は満足いく数字ではないが、指揮官の期待に応えようと必死だ。7月28日のDeNA戦(横浜)では、0対0の5回一死一塁で初球にヒットエンドランのサインが。左腕のアンソニー・ケイの外角高めの直球を一、二塁間にはじき返し、好機を拡大した。この一打で活気づいた打線は一挙5得点を奪う猛攻。守備面でも好リードでDeNA打線を封じ込め、菅野は3年ぶりの完封勝利。2人は抱き合って喜んだ。
大物OBも高い評価
今季は
岸田行倫が正捕手を務め、大城は打力を生かして一塁を守る機会が多い。スタメンマスクをかぶらなくても、経験豊富な小林がベンチに控えていることは心強い。
巨人OBで野球評論家の
廣岡達朗氏は「私ならまず投手を作る。そこで必要なのはライバルの存在。ライバルがいるから人間は発奮するのだ。そういう意味では巨人は今季、大城卓三からレギュラーの座を剥奪し、小林誠司と併用するようになった。岸田を含めて3人で競わせている。
原辰徳前監督は打力ばかり重視して大城を起用した。しかし阿部慎之助監督の方針は投手を育てる捕手を使うということだ。捕手出身だけに、分かっている。大城は捕手として原点に戻って這い上がればいい」と週刊ベースボールのコラムで、阿部監督の采配を評価していた。
かつては正捕手を固定する時代だったが、現在は複数の捕手を起用するのがトレンドになっている。
オリックスはFAで加入した
森友哉、
若月健矢のコンビで昨季リーグ3連覇を達成。2年連続最下位からの巻き返しを狙う
日本ハムは「強打の捕手」としてブレークした
田宮裕涼、投手の良さを引き出すリードに定評があるベテランの
伏見寅威が投手陣を引っ張り、貯金11で2位の好位置につけている。巨人と首位を争う
広島も
新井貴浩監督が
坂倉将吾、
會澤翼、
石原貴規を投手との相性などを考慮しながら起用している。
巨人は岸田、小林、大城が扇の要を務める。個性の違う3人だが、替えの利かない存在であることは間違いない。4年ぶりのリーグ制覇に向け、「3本の矢」で白星を積み重ねる。
写真=BBM