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野球強豪校の誘い断り、無名の公立高へ…広島の左腕が「V奪回のキーマン」に

 

光っている夏場の奮闘ぶり


優勝に向けて先発陣で欠かせない存在となっている玉村


 広島が9月3日のDeNA戦(横浜)で1対5と敗れたが、2位・巨人ヤクルトに敗れたため、0.5ゲーム差で首位をキープした。ペナントレース終盤でカギを握るのが先発陣だ。疲労がたまる時期に救援陣の負担を軽減するイニングイーターは頼もしい存在となる。広島で殻を破ろうとしているのが、5年目左腕の玉村昇悟だ。

 直球は140キロ前後だが、技巧派ではない。左腕の見どころが見づらいフォームで打者は球速以上のキレを感じる。スライダー、チェンジアップ、カーブ、シュートと多彩な変化球を操り、空振りを奪う。今季は11試合登板で4勝4敗、防御率2.65。8試合で6イニング以上を投げ切り、夏場の奮闘ぶりが光る。7月30日のDeNA戦(横浜)では133球を投げ切り、5安打8奪三振3失点で自身初の完投勝利。8回までは無失点と完璧な投球だった。

 玉村は「最後に点を取られてしまったけど、9回を一人で投げ切れたことは自信になるし、次のステップになると思います。9回のマウンドに上がるときのファンの皆さんの応援は、鳥肌が立ちました。一つひとつのアウトを取ったときの声援も、今まで味わったことがないほど。最後は完封を意識してアウトを取り急いでしまったところもある。そういうときこそ、じっくりしないといけないと思いましたし、いい経験ができました。今度は完封したいという気持ちにもなりました。今までは想像したくてもできなかったもの。それが見えたということも、すごく大きいと思います」と収穫を強調していた。

 8月12日のDeNA戦(マツダ広島)も9回3失点の投球で2試合連続完投勝利。9月1日のヤクルト戦(マツダ広島)も8回0/3を6安打1失点の力投で4勝目をマークした。

「ギラギラしていますよ」


 大瀬良大地床田寛樹九里亜蓮森下暢仁アドゥワ誠に続き、玉村が先発で安定した投球を見せていることが、首位をキープしている要因になっている。福井弁の訛りでおっとりした口調。ニックネームは「たまちゃん」で、癒し系キャラとしてファンの間で認知されているが、丹生高校野球部の恩師・春木竜一監督は、「皆さん騙されていますよ。ヒーローインタビューとかで、少し訛りとかが入ってかわいらしいようなイメージも持たれるでしょうが、本当は違います。どちらかといえば、ハートが強く芯の通った人間です。あの姿は愛されると思いますが、実は、とてもストイックで、貪欲。ギラギラしていますよ」と週刊ベースボールの取材で明かしている。

 玉村は中学時代に県内屈指好左腕として名を轟かせていた。高校進学の際は私立の強豪校から誘いがあったが、「兄もここでしたし、小・中の仲間やライバルみんなで甲子園を目指すのがよかったです。強豪校を倒して甲子園に行ければ最高だと思いました」と無名の公立高だった丹生高に進学する。この決断が正解だったことをその後の活躍で証明している。3年夏に敦賀気比の山田修義(オリックス)が保持していた49奪三振を超える大会新記録の52奪三振をマーク。甲子園出場は叶わなかったが、同校を初の福井県大会準優勝に導いた。

高校時代は森下を参考に


 玉村は高校時代に春木監督と様々な投手の映像を見ながら、意見を頻繁に交わしていたという。春木監督はこう証言している。

「あるとき見つけたのが、(当時明大の)森下(森下暢仁)投手の映像でした。玉村は柔らかさがあって、その腕で投げているところがありました。でも、下半身が使えていないので、球質が軽かったです。大事なところで長打を打たれることがありました。森下投手は柔らかいのですが、下半身も使って投げている印象でした。胸の張り方にも素晴らしいものを感じました。そのあたりを意識して玉村とキャッチボールをやってみると、ボールは重くなって、受ける私の手が痛いくらいでした。お互い現状に満足せずやれました。チャレンジして失うものはないという思いは一緒でしたから」

 運命の糸で結ばれていたのだろう。森下が広島にドラフト1位で指名されると、玉村も6位で入団。同期の絆で結ばれた両投手は切磋琢磨している。目指すはリーグ優勝。ラストスパートで白星を積み上げる。

写真=BBM
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