打撃で果たした成長

8月11日のDeNA戦では2本のアーチを放って勝利に貢献した
プロの世界は結果がすべてだ。最下位に低迷しているチーム状況では、なかなかスポットライトが当たらない。だが、他球団のスコアラーが「攻守の総合力で考えたらセ・リーグNo.1の遊撃手でしょう。もっと評価されるべき選手だと思います」と指摘する選手がいる。
ヤクルトの
長岡秀樹だ。
今季は123試合出場で打率.291、6本塁打、51打点。遊撃手という負担のかかる守備位置を考えれば、十分に合格点を与えられる。8月は月間打率.384、3本塁打、11打点と猛暑の中で絶好調だった。直球を力強くはじき返し、変化球にもきっちり対応する。11日のDeNA戦(横浜)では、初回に左腕・ケイの153キロ直球を右翼席に運ぶ2試合連続の5号先制ソロを放つと、3回二死二塁で再びケイから中前適時打。同点の7回も
山崎康晃のスプリットを右翼ポール際に運ぶ決勝の右越え2ランと止まらない。自身初の1試合2本塁打で、猛打賞4打点の大暴れだった。
昨年は135試合出場で打率.227、3本塁打、35打点。守備率.985はリーグトップだったが、打撃は試行錯誤を繰り返した。不振でも我慢強く起用し続けてくれた
高津臣吾監督の期待に応えたい。今季は中堅から逆方向への安打が目立つ。今季の安打の内訳をみると、左翼方向が42本、中堅方向が35本、右翼方向が49本(内野安打13本)。コースに逆らわず広角に打ち分けていることがデータに表れている。対左投手は打率.319。昨年の打率.244から大幅に上がっている。
遊撃で安定した守備力も大きな魅力だ。9月5日の
巨人戦(岐阜)では、0対0で迎えた3回二死二、三塁のピンチで
大城卓三の中堅方向に抜けそうな打球を好捕。1回転しながら素早くファーストに送球して遊ゴロにした。体のバランス感覚に優れ、厳しい体勢からも送球が安定している。球際に強く、幾度もチームの窮地を救ってきた。
開幕戦で悔しい思い
長岡には忘れられない試合がある。今年3月29日の開幕・
中日戦(神宮)。「八番・遊撃」でスタメン出場したが、捕ゴロ、中飛と凡退し、3打席目は同点の6回一死満塁で好機が回ってきたが、代打を送られた。週刊ベースボールのインタビューでこう振り返っている。
「悔しくて野球で泣いたことはなかったんですけど、試合中に初めて涙が出たぐらいめちゃくちゃ悔しくて。一軍で出始めて3年目、今年に懸ける思いはすごくあって、『絶対、今年』と思っての開幕戦。ヒーローになるチャンスで代えられた。すごく意気込んでやってきたのに『なんでだよ』と。もう自分のふがいなさ。あれほど悔しい思いをしたことはないなって」
「(試合は逆転勝利を飾ったが)悔し過ぎて、あんまり覚えてないというか。遥輝(
西川遥輝)さんの三塁打で、点差がついた記憶はあるんですけど(8回にダメ押しの2点適時三塁打)、それぐらいしか覚えていなくて。悔し過ぎてたまんなかった思い出ですね。でも、絶対にあれがあるから今に生きている。『見返してやろう』じゃないですけど。反骨心は人より強いなと思いますけどね」
球団の名遊撃手の系譜

ヤクルトは池山、宮本ら名遊撃手を輩出してきた
悔しさがバネにすることで成長している。ヤクルトには名遊撃手を輩出してきた歴史がある。80年代後半から90年代前半にかけ、
池山隆寛(現ヤクルト二軍監督)が「ブンブン丸」と形容された豪快なフルスイングで5年連続30本塁打をマーク。1990年は打率.303、31本塁打で、遊撃手として史上初の「打率3割、30本塁打」を達成した。
その池山から定位置を引き継ぐ形となった
宮本慎也は、球界屈指の守備能力でゴールデン・グラブ賞を6度受賞。三塁にコンバートされた後も4度輝き、複数ポジションで歴代最多記録の計10度受賞。打撃でも名球会入りしている選手で唯一の通算2000安打、400犠打を記録した。状況判断に間違いがなく、首脳陣の期待にきっちり応える。攻守に卓越した技術を発揮した職人だった。
長岡は遊撃の定位置をつかんで3年目。偉大な先輩たちとは違ったスタイルの遊撃で輝きを放っている。22歳の若武者の全盛期はこれからだ。
写真=BBM