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【大学野球】早大先輩理事が慶大主将・本間颯太朗に「ブラシ」をプレゼントした理由は?

 

至極のエピソードを披露


早大・岡村先輩理事[左]は慶大の主将・本間[右]にブラシをプレゼント。突然の指名に、驚いた様子だった[写真=BBM]


 東京六大学秋季リーグ戦の開幕を2日後に控えた9月12日、東京都内で懇親会が開かれた。加盟6校監督、選手は各6校から主将と、東京運動記者クラブ・アマチュア野球分科会が依頼した指名選手6人が出席。連盟役員も顔をそろえて、報道陣らと交流を深めた。

 中締めのあいさつで早大・岡村猛先輩理事は至極のエピソードを披露した。今年は、早大が6校持ち回りの当番校。東京六大学における「先輩理事」とは野球部OBが担い、野球部と大学、連盟との橋渡しとしての重要ポストであり、リーグ戦運営に欠かせない役員だ。

 岡村先輩理事は佐賀西高、早大、東京ガスとアマチュア球界の王道を渡り歩いてきた。2011年から14年までは母校・早大を監督として率い、12年春にはリーグ優勝、全日本大学選手権では5年ぶり4度目の日本一へ導いた。歴史に造詣が深く、東京六大学の伝統と格式を学生に伝えてきた熱血指導者だった。

 現場指導から、17年に先輩理事という運営サイドに回って以降も、白球への情熱は不変。当番校の先輩理事は、リーグ戦を見るのも役割の一つ。アクシデントがあればすぐに対処し、常にグラウンドに目を光らせる必要がある。この春は神宮で、計35試合を観戦した。

 その中で、最も際立った行動を紹介した。

「スリーアウトチェンジになり、ダッグアウトに戻る際、ボールをこねてきれいにし、投手プレートの土を手で2、3回拭き取り、ボールをそっと置く。まるで神棚にお供えするように……。これから守備に就く相手チームへのリスペクトを示す行動に『ホスピタリティの高い選手なんだ!!』と。こうした選手たちの所作が、東京六大学の歴史と伝統をつないでいくのだと、感銘を受けました」

 その選手とは、懇親会に出席していた慶大の主将・本間颯太朗(4年・慶應義塾高)と明かした。本間は壇上に呼ばれた。バイタリティにあふれる岡村先輩理事は、あるプレゼントを用意していたのだった。

 プレートの土を拭く、ブラシである。この日のために準備し、明治神宮でお祓いをし、雑念を振り払うため、祈祷してきたという。

「本間主将はホスピタリティが高いですが、この春の打率(.143)は高くなかった(苦笑)。雑念を振り払えば……。この秋はリーディングヒッターに期待しています!!」

お互いをリスペクトしてプレー


 当番校の立場として、東京六大学野球連盟の発展を心から願っている。早大にとって、慶大は永遠のライバルだが、早大の役員が慶大の学生を称えるのは、ごく自然。あくまでも勝敗を競う「対戦相手」であって、そこには「尊敬の念」がある。また、根底に「仲間意識」がある。これが、東京六大学の良さ。予期せぬ流れに、慶大の主将・本間は驚きを隠せなかったが、これ以上の喜びはない。

「かつて明治の選手がやっている姿を見て、マネをしたのがきっかけです。お互いをリスペクトしてプレーすることは、大切だと感じています。来年で100年という、長い歴史を積み上げてきた東京六大学。僕たちも伝統の一部になれるように、精いっぱいプレーしていきたい。この春は、不甲斐ない結果でした。主将になって、どこかに重圧があり、雑念があったかもしれません。このブラシをユニフォームのポケットに忍ばせて、秋はたくさん打ちたいと思います!!」

 出席者は、一堂に笑顔になった。

 東京六大学は創設された1925年秋から99年、6校が手を取り合う『共存共栄』のスタンスを取ってきた背景がある。懇親会の中締めは、過去にない展開で、会場内には和やかな空気が流れた。岡村先輩理事の発信は、学生野球の原点を確認する貴重な場となった。

文=岡本朋祐
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