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【社会人野球】U-23W杯で日本代表が3度目の優勝 川口朋保監督が語る勝因は?

 

ポイントはプエルトリコ戦


昨年10月20日、侍ジャパン社会人代表監督に就任した川口氏。同年12月のBFAアジア選手権を制し、今大会も強さを発揮した。2026年のアジア競技大会[愛知県開催]までが任期である[写真=BBM]


 第5回WBSC U-23ワールドカップで2大会連続3度目の優勝を遂げた侍ジャパンU-23代表が9月17日、中国から帰国した。当初は前日の予定だったが、台風の影響により、チーム移動便が欠航。現地で1日、足止めとなりこの日、成田空港に到着している。

 山中正竹団長(全日本野球協会会長)、侍ジャパン社会人代表・川口朋保監督(三菱自動車工業)以下のコーチ陣と、選手24人による記念撮影の後、報道各社の取材に応じた。

 今大会のポイントは、プエルトリコ戦だった。

 オープニングラウンド初戦で1対6と敗退した。投打とも精彩を欠くスタートにも、川口監督は動じず、決して慌てなかった。「ミスターアマ野球」からの金言を思い出した。

「国際大会は、何が起こるか分からない」

 侍ジャパン社会人代表・杉浦正則アドバイザーからの助言だった。杉浦氏は五輪に3大会連続出場。川口監督とは和歌山の同郷で、大会期間中もLINEでやり取りをしていた。

「(プエルトリコ戦は)第3試合のナイトゲームでした。球場に入ると、すぐに試合となりました。(準備する)時間がなくて……初戦はゲームの入りがうまくいきませんでした。杉浦アドバイザーが言われた、まさにその展開に……。初戦を落としても、オープニングラウンドで脱落したわけではありません。しっかり立て直して『決勝でプエルトリコ戦を迎えようぜ!!』と言ってきました。2戦目以降は、自分たちの野球ができました」

 どんなアプローチをしたのか。こう伝えた。

「負けてしまったことを振り返っても仕方ない。気持ちと頭を整理。次々と毎日、試合が控えているわけですから、切り替えて、次の試合にいかに勝つため、(自分で)コントロールできることに集中していきましょう!!」

 勢いに乗ったのは地元・中国との第2戦。完全アウエーの難しい一戦となったが、日本チームは怯まなかった。先発の左腕・長久保滉成(NTT東日本)が完封(2対0)。オーストラリアとの第3戦も先制される苦しい展開だったが、逆転勝利(4対1)。川口監督は序盤3試合で、世界で戦える手応えを得た。

「日本の特長であるバッテリーを含めた投手力、守備力という強みを最大限に生かして、いかに得点力を上げていくかが課題でしたが、打力のほうで、振れる選手が増えてきた。初見の投手がほとんどであり、ファーストストライクを振っていく。低めのボール球には手を出さず、ベルト付近のボールを1スイングで仕留める。しっかり振り切ってくれました。今後も日本としての課題を継続していって、(発展させた上で)強みにしていきたい」

 その後、コロンビア、イギリスに快勝してオープニングラウンドA組を4勝1敗で通過。スーパーラウンドではベネズエラ、ニカラグア、韓国に3連勝。川口監督の目論見どおりに、プエルトリコとの決勝進出を決めた。

「7イニング制なので、序盤2回までの得点が大きいんです。初回に相手のミスで2点を先制できたのは大きかった。先発の長久保がアウト一つひとつを取ってくれ、自分のピッチングをしてくれました(4回無失点)」

第5回WBSC U-23ワールドカップを制した侍ジャパンU-23代表が、金メダルを首にかけ記念撮影を行った[写真=BBM]


 プエルトリコを相手に5対0でリベンジし、世界の頂点に立った。スーパーラウンド第3戦は19時開始のナイトゲームだった。当初、決勝は翌日の19時開始だったが、悪天候を見据えて、午前9時開始に前倒しされた。

「決勝前日の試合を終えて、宿舎に戻ると、22時は過ぎていました。翌日は朝6時に朝食、7時には球場入りという予定でした。ランドリーのこともあり、選手たちは、まともに眠れなかったはず。杉浦アドバイザーからは『トラブルが付きもの』と言われていましたが、選手たちはタフなタイムスケジュールにも対応していた。たくましかったです」

 一塁手のベストナインを受賞した今里凌(日本製鉄鹿島)は、内情をこう明かした。

「ベッドに入ったのは25時。そこから2時間は眠れず……(苦笑)。起きたのは朝5時30分。きつさ? なかったです。なぜか、楽しさのほうが、上回っていました」

 精神的にもタフなチームだった。川口監督はあらためて勝因を語る。

「U-23は年齢的にも近い選手。コミュニケーションを重きに置いて、体現してくれた。行動してくれた。プレーに表してくれた。そこに尽きる」

 プレーする選手だけでなく、コーチ、ドクター、トレーナー、スポーツサイコロジストのほかチームスタッフを含めた優勝であることを強調。中でも川口監督は「クオリティーコントロールを担当した谷本さん(夏海)はデータ、映像を提供してくれました。選手たちはシンプルに生かしていた。優勝できた一つの要因です」と裏方への感謝を忘れなかった。

 24人の限れたメンバー。選手選考、チームづくりの上で、大事にしていたことがある。

「どうしても控えになる選手が出てくる。短い期間ですけど、チームワークを求めていくには、出る選手だけではなく、控えでサポートできる選手の動きが大切です。周囲に配慮できる選手を選んだ。控え選手も、自分が出場したときに最大限の力を発揮する。選手たちが理解し、24人が体現してくれました」

 24人に求めるもの。川口監督は大会を通じて発信してきた。発想はワールドワイド。普及・振興にも踏み込む熱血指揮官である。

「U-23のメンバーは今後の社会人野球を担っていく選手がほとんどだと思います。チームに還元するのは当たり前。日本の社会人野球を底上げしていく、大きな役割を担っている。そういう意識でやってほしい、と伝えました。日本の野球だけでなく、アジア、世界のトップに立ちながら、けん引していこう、と。ただ、日本が強いということだけではなく、世界の各国で野球をやっていただける選手が一人でも多く、野球ファンを少しでも増やしていきたい」

 侍ジャパンU-23代表が「世界一」を目指していた中で、日本国内では社会人日本選手権の出場をかけた最終予選が行われていた。

「予選を控えていたチーム、いろいろな状況の中で侍ジャパンに派遣していただいた所属チームには、改めて感謝したいです」

 最後に今後の展望を語った。

「2026年のアジア競技大会(愛知)で優勝するのが最大の目標。25年のBFAアジア選手権を踏まえて、チームづくりをしていきたい。今回の24人には『自分たちのベストを尽くして、ベストを超えよう!!』と。チャレンジする集団をコンセプトにしてきました。26年までに仕上げていきたいです」

 常日頃から負ければ終わり、トーナメントの一発勝負を展開している社会人野球の結集力を、今大会であらためて示す形となった。短期決戦で、強さを発揮できる理由。侍ジャパンにおける他のカテゴリーでもチーム編成、戦術、メンタルのほか、社会人野球から参考になる要素がたくさん詰まっているはず。各世代がさらなる連携強化を図るべきだ。

文=岡本朋祐
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