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【大学野球】過去と比較しても「一番いい状態」 いよいよ幕を開ける明大・宗山塁のラストシーズン

 

「血の明法戦」を意識してのコメント


明大の主将・宗山は東大との開幕戦[9月21日]を前に取材に応じた[写真=BBM]


 明大から見れば「血の明法戦」、法大から見れば「血の法明戦」と呼ばれるライバル対決がある。東京六大学リーグ戦は原則、計8週で行われ、第8週は早慶戦で固定。第7週では明大と法大のカードが組まれるケースが多い。両校が自力優勝するには、第7週までに決着をつける必要がある。両校によるV争いとなれば、第7週の対抗戦はより白熱する。

 東京六大学秋季リーグ戦開幕2日前(9月12日)、連盟関係者、報道各社が囲んでの懇親会で、気になる発言があった。明大の主将・宗山塁(4年・広陵高)の抱負である。2022年以降、プロ野球・ヤクルトの試合日程の関係で、偶数年の秋は9週制で行われる。

「この秋は自分たちの代のラストシーズン。良い形で終われるよう、4年生を中心に頑張っていきたい。法政・篠木(篠木健太郎、4年・木更津総合高)と最終カード(第8週)で対戦します。他校に勝った上で最後、法政と優勝決定戦ができればと思います」

 明らかに「血の明法戦」を意識してのコメントである。その真相を、改めて本人に聞いた。

「この秋で言えば、第9週の早慶戦が、優勝に関わらない展開にするぐらいの思いで、自分たちはやっていかないといけない。最終の5カード目である法政との第8週を、勝ち点4同士の優勝決定戦にできれば、自分たちとしても盛り上がる試合になる。学生野球の集大成として、一番、良い試合ができる。そういう意味で、話をさせてもらいました。この春は優勝を逃したので、秋は自分たちの力で天皇杯を奪還する。その思いが強いです」

 2年時に大学日本代表でプレーして以来、親交のある157キロ右腕・篠木への思いもある。

「大学では最後の対決。いろいろ交流させてもらってきましたが、野球では真剣勝負。篠木が一番、自信を持っているストレートをたたく。理想は本塁打ですけど、率を高く打たれるほうが、ダメージも大きいと思うので、複数安打に長打が一本出せればいいです」

改めて芽生えた家族への感謝の思い


 さて、明大は9月21日、第2週の東大との開幕カードで秋季リーグ戦が幕を開ける。

「不安もあり、緊張感の中にも楽しみな部分もある。終わったときに、どのような結果になっているのか……。リーグ戦の入りはいつも気が引き締まりますし、逆に、その気持ちを忘れてはいけないと思います。ケガ明けで試合に出られるので、特別な思いがあります」

 宗山は3年秋までに東京六大学リーグ通算94安打。連盟記録である明大の先輩・高山俊(2024年はオイシックス新潟に在籍)の持つ131安打の更新が期待されていた。ところが、学生ラストイヤーはアクシデントの連続だった。2月末のオープン戦で死球を受けた。井端弘和監督が率いる侍ジャパントップチームに選出され、チームに合流したが、右肩甲骨骨折が判明。強化試合を欠場し、帰京後に再度、診察を受けると全治3カ月。春絶望かと思われたが、奇跡的な回復力で間に合わせた。しかし、開幕2カードを終え、第5週を控えた空き週のオープン戦で右手中指第一関節を骨折。残り8試合を欠場し、主将としての影響力の大きさにより25人の登録メンバーからは外れず、ベンチで鼓舞した。

 秋の完全復活に向けて調整する中で6月下旬、野球部のオフ期間を利用して3日間、広島に帰省した。過去3年にはない動きであり、心身をリフレッシュできた。母校・広陵高の中井哲之監督へあいさつに出向いただけでなく、後輩たちと一緒に汗を流したという。

「中井先生にはケガの期間中にも連絡をさせてもらい『今できることを』との言葉を胸に、次に向けたトレーニングをしていました。広陵の空気を吸って、高校在学当時の気持ちを思い出せたのは良かったです」

 自宅では父・伸吉さんが小学3年時に作ってくれた、打撃ケージで汗を流した。

「父が昼間に仕事に行っている間、一人で、置きティーをしました。ここがなければ、今はない。小、中学校時代を思い出し、良い時間を過ごすことができました」

 家族への感謝の思いが、改めて芽生えた。

「自分は何の不自由もなく野球をやらせてもらっていますし、自分が野球を続けていく上で、両親がいろいろなことを犠牲にして、自分のために時間を費やしてくれた。この秋、明治のユニフォームを着てプレーするのは最後なので、良い姿を見せたいと思います」

打撃好調の裏づけとなる3つの理由


 過去7シーズンと比較しても、今秋は「開幕前としては、一番いい状態にあります」と笑顔で語る。打撃好調の裏づけとなる3つの理由を、明大・田中武宏監督が明かしてくれた。

 まずは、スイング軌道である。

「春のキャンプから、打球を上げようとしているように見受けられたんです。簡単に言えば、トップの位置からヘッドが垂れる。ドジャース・大谷翔平選手のような軌道は、相当なスイングスピード、190キロ近い打球速度がないと実践できません。ウチの学生は150キロ程度。チームとしてやめさせました。ダウンスイングをやる選手を使っていくから、と。宗山もヘッドが残って、良い打球が出ている。元に戻ってきたと言っていいでしょう」

 次に、ヒットゾーンである。

「甘い球を逃さず、しっかりと広角に打てている。夏場のオープン戦は、初戦こそ無安打でしたが、それ以降は左右の投手に関係なく、複数安打を放っている。これもチーム全体で徹底していることですが、開幕2週間前からフリー打撃でも制限をかけ、かなり引っ張り込んだ選手は、その時点で交代というルールに。打球方向を決めさせています」

 最後に、本塁打である。

「宗山はホームランバッターではありません。ただ、スイング軌道が戻ってくれば、自然と打球も上がってくる。つまり、ヒットの延長線上として、本塁打になるのです。この夏のオープン戦は2本塁打。ソフトバンク大野稼頭央投手、ENEOS・加藤三範投手と左腕からの一発は内容のある打撃でした。この秋は変な気負いもないと思うので、勝つことに集中できる。ケガなく、終えてほしいです」

夏場のオープン戦から好調を維持しており、入学から8シーズン目で最高のコンディションだという。表情からも充実ぶりが伝わる[写真=BBM]


 宗山は言う。

「良いときは、左投手も関係なく打てる。左腕から長打、本塁打が出たのは良い傾向であることは間違いないです。コースに逆らわないスイングができている。自分の感覚と、実際の打球が近いものになっていかないといけない。打撃フォームで変わったのは、ムダな動きをなくしたこと。コンパクトな回転でパワーを生み出す。言葉で説明するのは難しいですが、しっかり体を使って回転で振るイメージ。そこはずっと、修正してきました」

 今春は5試合で4安打。足踏みしていたリーグ史上34人目の100安打まで、あと2本だ。

「記録を狙いにいくというよりは、その場面に応じた打撃、得点に絡められる一打が打てた中で、結果として数字がついてくればいい。勝利のための一打、どれだけ自分が打つかで勝てる確率は変わってくると思うので、そこの責任は大きいです。目の前の1勝をするための打撃ができたらなと思います」

 チームを3年春以来のV奪還へと導いた上で「首位打者、ベストナイン、三冠王(打率、本塁打、打点)を追い求めていきたい。1試合、複数打てば、自ずと打率5割に近づくと思うので、そこは目指したいです」と語った。

 大安の9月24日、プロ志望届を提出する。宗山は東大戦を前に、丁寧に記入したという。

「小学校時代から『プロに行く』という目標を掲げてきた中で、自分で書いて提出するというのは、一つの重みがある。『覚悟が必要だな』と改めて感じています。ここを目指してきたので、自分にとって野球人生の一つの節目になる」

 2024年のドラフト超目玉は「20年に一人の遊撃手」と高い評価を受けている。12球団同時の1位入札での複数球団の競合は確実。すでにオープン戦でNPBスカウトに完全復調の姿を見せているが、神宮にも最終確認に、多くのプロ関係者が熱視線を送るはずだ。

文=岡本朋祐
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