明大にとって特別な数字
今秋から背番号25を着ける明大の四番・杉崎が、東大1回戦でリーグ戦初本塁打を放った[写真=矢野寿明]
【9月21日】東京六大学リーグ戦
明大10-0東大(明大1勝)
9月7日は、東京六大学秋季リーグ戦の第一次登録締め切り日だった。明大・田中武宏監督は毎シーズン、土壇場まで熟考する。学生たちが努力してきた成果を、正確にジャッジしなければならない。背番号「25」は、杉崎成(4年・東海大菅生高)に渡す決断をした。
明大にとって「25」とは、特別な数字である。かつて、OBの
広澤克実氏(元
ヤクルトほか)が着けて以来「右の強打者」に託される伝統がある。ただ、例外もあった。
2021年春から4シーズンは
上田希由翔(現
ロッテ)が着けた。上田は左の強打者。当時、広澤氏の了承を得た上で「25」を背負ったというエピソードが残っている。上田は4年生となった23年に主将となり、キャプテンナンバー「10」。昨年の春、秋、そして今春も「25」が不在だった。ふさわしい選手が見当たらない場合は、空位も当然のようにある。エース番号の「11」と並んで、明大にとってステータスのある番号として扱われてきた。
杉崎はラストシーズンにして、田中監督から「右の強打者」として認められたのである。
だが、ここで、野球部内部でトラブルが起こった。明大は今春から三塁ベンチの際は、新調したグレー地のユニフォームを着用(一塁側の際は、従来のアイボリー地)する。春不在だった背番号25のユニフォームを、準備していなかったことが判明したのである。
リーグ戦開幕を約2週間後に控え、2着あった中山琉唯(4年・常総学院高)の背番号「20」のユニフォームを業者へ送り、「0」を外して、新たに「5」を縫いつける作業を依頼。東大1回戦前日の午後に届き、ギリギリで開幕カードに間に合わせたのだった。
杉崎は2年生以下でチーム編成されるフレッシュトーナメントで無類の勝負強さを発揮してきた。1年春に3試合連続本塁打(対立大戦=3ラン、法大戦=ソロ、早大戦=2ラン)を記録すると、1年秋には法大戦で2ラン、2年春は早大戦でソロ、2年秋は立大との決勝で逆転3ランを放ち、優勝に貢献。計6本塁打を記録した一方で、リーグ戦は4年春までの7シーズンで規定打席に到達したことがなく、16試合で35打数9安打8打点(打率.257)とレギュラーに定着できずにいた。リーグ戦では、ノーアーチだったのである。
「トレーニングも手を抜かず、しっかりやっている。決して、怠けていたわけではありません。チーム内競争が展開される中、どうしても多くの学生に出場機会を与えたい思いがあります。限られたチャンスで結果を残さなければ、神宮に立つことはできない。この夏はオープン戦4本塁打。プロ、社会人投手にも対応していました。打席を多くこなしていくことで、対応力が増していきていきます。一塁守備も含め、実戦の『慣れ』は大事です」
「三冠王を獲りたい」
田中監督は杉崎に「最後の最後に期待を込めて」背番号「25」を託すとともに、東大1回戦では四番に起用した。0対0のまま迎えた9回表、明大の攻撃。主将・
宗山塁(4年・広陵高)のソロ本塁打で待望の先制点を挙げると、打者14人の猛攻で10得点。杉崎はこの回、2度目の打席で左越え2ランを放った。うれしいリーグ戦初本塁打で、背番号「25」が、ダイヤモンドを一周した。杉崎は野球部を通じて、喜びのコメントを残した。
「高校時代やフレッシュトーナメントでホームランを打った経験はありましたが、リーグ戦の舞台では初めてだったので、率直にうれしい。前の打席で外角のボールが見えていないと思ったので、若干踏み込むイメージで打席に入ったのが、結果につながったと思う」
田中監督は冗談交じりに、三塁ベンチ内にいた学生に、こう話しかけたという。
「初本塁打か? そうだ!! 全部、フレッシュトーナメントだったからな……(苦笑)」
試合後、田中監督は「何とか、形になってきた。(田中監督の1学年後輩の)広澤にも良い報告ができます」と目尻を下げた。杉崎は今秋の目標をこう語る。
「最終回はいいイメージで打てた(9回表の第4打席で三ゴロ内野安打、打者一巡となった第5打席で本塁打)ので、ここから成績を残して、三冠王を獲りたいです」
四番が打てば、チームは勝つ。「未完の大器」と言われた右のスラッガーが、学生ラストシーズンに素材を開花させた。2023年春以来のV奪還を遂げるため、すべてを出し切る。
文=岡本朋祐