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【大学野球】東大サブマリンの渡辺向輝が法大戦でリーグ戦初勝利をマークできた3つの理由

 

緩急自在の投球


東大・渡辺は9回151球を投げ抜き、2失点完投勝利。ウイニングボールを手に笑顔を見せた[写真=矢野寿明]


【10月13日】東京六大学リーグ戦第5週
東大3x-2法大(1勝1敗)

 東大の下手投げ右腕・渡辺向輝(3年・海城高)は、「ミスターサブマリン」としてNPBで一時代を築いた渡辺俊介氏(元ロッテほか、日本製鉄かずさマジック監督)を父に持つ。

 東大入学以来、2年春から神宮で登板するたび、試合後の指名選手に呼ばれた。報道陣の質問に対して、一つひとつ丁寧に答える好青年である。まるで、入社面接のように両膝をつけて着席し、行儀の良さが際立っていた。

 この秋から先発に定着。法大2回戦は9回裏にサヨナラ勝ち。渡辺は151球を投げ、2失点完投で、うれしいリーグ戦初勝利を手に。法大との対戦成績を1勝1敗のタイとした。

 試合後の記者席裏。いつもの取材スペースに渡辺が姿を見せた。開口一番、嘘偽りない正直なコメントを発信した。

「いつもここで取材を受けるときは、負けた悔しさで落ち込んでいる。今日は泣きそうなぐらい、うれしいです」

 法大は9安打を放ち、7四死球を選び、2度の満塁機も生かせず、13残塁の拙攻だった。なぜ、渡辺は5回を除いて走者を背負いながらも、2失点にしのげたのか。

 3つの理由がある。まずは、先輩の存在だ。

「1年時からお世話になってきた鈴木太陽さん(4年・国立高)が慶大2回戦で完投勝利を挙げ、自分も続いてやるぞ、と、オープン戦を通じて完投は初めてです。勝つならば、自分しかいないと思っていました」

 次に、緩急自在の投球である。

渡辺は全力で投げれば130キロ近くの真っすぐを投げられるが、あえて、タイミングを外す目的で、110キロ台のボールを扱っている。変化球はシンカー、チェンジアップ、カーブを巧みに配球し、相手打者に的を絞らせない。

父からのアドバイス


アンダースローは球界の「絶滅危惧種」と言われている。投球フォームは、現役時代の父とそっくりである[写真=矢野寿明]


 最後に、父からの助言である。1勝1敗で迎えた慶大3回戦。2017年秋以来の勝ち点をかけた一戦で、先発した渡辺は6回途中3失点で敗戦投手となった(0対3)。

「自分はこの(これまでの試合後の)取材で、父親に対して、反抗的な態度を取ってきました。慶應に負けてからのアドバイスで、明らかに成果が出ました。今回は感謝したいです」

 渡辺の武器の一つであるシンカーの使い方を、電話で2回、学んだという。

 海城高時代はオーバースローも、連投続きで「やむを得ず」と、肘を下げた背景がある。東大入学後はオーバーとアンダーで調整していたが、自らが生きる道として下手投げを選択。父はWBC優勝を2度経験したレジェンドだが「父の参考、マネはしていませんが、ムダを省いていくうち、結局は同じ形になった」。かつて「世界一低い」と言われた、父のリリースに近づいている。当然、リスペクトしている。だが、周囲は必ず比較をする。息子としては、照れ隠しをしていたのだった。

 高校3年夏は城北高との東東京大会で初戦(2回戦)敗退。試合会場は神宮だった。167センチ61キロ。マウンド上では大きく見える。いかに、相手打者を抑えるか。努力と工夫を重ねた。甲子園経験者を多数擁する法大から勝利を挙げたのは、大きな価値がある。

「1年秋の段階で、3年時には先発として頑張りたいと言ってきました。そういう意味では達成感がある。(勝利の瞬間の)観客の皆さんからの拍手を聞いて、やってきて良かったな、と」

 悲願の初勝利も、課題を口にしている。

「7四死球。完成度としては……。守備と(バッテリーを組む捕手の)杉浦(海大、3年・湘南高)に助けられました。今度は自分の力で勝ち切る。見ている人が安心する、楽しめるピッチングをしたいと思います」

 渡辺は大学卒業後の進路について言及した。すでに就職活動をスタートさせているが「野球継続」の道も、模索しているという。「秋から先発をさせていただき、続けていきたい思いが芽生えています。まだ、実力がないことは分かっていますが、プロに挑戦したい思いもあります」。アンダースローは球界の「絶滅危惧種」と言われている。学生ラスト1年の成長によっては、活躍の場は広がるはずだ。

文=岡本朋祐
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