周東佑京が理想の選手

　10月24日はドラフト会議である。さわかみ関西独立リーグに所属する和歌山ウェイブス・小川佐和外野手(24歳)は、運命の日を心待ちにする。率直な思いを聞いた。

「ワクワク……。ドキドキ……。何とか指名していただきたい。それしかありません」

　昨年はNPB1球団から調査書が届いたが、名前は呼ばれなかった。「10月26日からもう一度、切り替え、1年後のために練習してきました。とにかく、NPBに行きたいです」。今年も1球団から、調査書が来た。「直感的に、昨年とは違う、良い方向の感情があります。当然、レベルアップしていないといけないわけですが……」と手応えを得ている。

　持ち味は50メートル走で5秒7(手動)を計測したことがある俊足だ。小学校時代は陸上競技大会に駆り出され、100メートルで県1位となったこともある。入団1年目の昨季は47試合で58盗塁、2年目の今季は45試合で65盗塁をマークした。「足だけでは、プロで必要とされる選手にはなれない」。昨年の指名漏れを受け、今年は打撃を強化した。

「昨年は出塁することを最優先にして、スカウトさんにアピールするためにも、塁に出たらとにかく、(盗塁の)数を稼ぐことしか頭にありませんでした。今年は数よりも質を追い求めて、打撃もしっかりバットを振り抜き、引っ張りや長打も意識してきました。ウエートトレーニングの成果が出たと思います」

　右投げ左打ちの外野手。守備範囲が広く、遠投115メートルの強肩でも魅了できる。プレースタイルの進化。一つのきっかけがあった。今年1月、知人との縁で、ソフトバンク・周東佑京とトレーニングする機会に恵まれた。

「周東さんも足だけではなく、すべてにおいてレベルが高いことを再確認しました」

　小川が目指す理想のプレースタイルであり、「とても、良い時間でした」と刺激を受けた。結果的に、昨年よりも盗塁の数は上回り、手応えをつかんで9月末にシーズンを終えた。

夢を捨てきれずに

　地元・和歌山県出身。田辺第二小時代に在籍した田辺第二クラブでは、6年時に捕手で近畿大会出場。東陽中では軟式野球部でプレーし、2年春に遊撃手で全国大会に出場した。「甲子園を目指す」ため、石見智翠館高(島根)に進学。2年秋から一番・中堅のレギュラーで、チームメートには四番・水谷瞬(現日本ハム)、六番・久保修(現広島)がいたが、甲子園の土を踏むことはできなかった。

「3年夏は県大会決勝で敗退しまして……。目の前にあった甲子園に行けず、燃え尽きたほどではなかったですが、その後のことを考えようと一度、和歌山に戻りました」

　地元で就職。草野球チームに入ったものの、ほとんど活動することはなかった。女手一つで高校まで卒業させてもらい、母に金銭面でサポートしたい思いも強かった。4年が経過。夢は捨て切れなかった。「ここを逃したら……。今しかない」と、地元・和歌山の独立リーグの和歌山ウェイブスに入団した。午前中は週4〜5回の清掃業のバイトで、活動資金等を稼いだ。朝8時から昼まで仕事をして、午後から練習。シーズン中、試合開催日はバイトに入らず、野球に専念してきた。

「ハングリー精神？　ありますね。恵まれた環境でプレーする人たちには、負けたくない思いは強いです。地元出身で、周りから応援の声も聞こえてきます。お世話になった球団からNPB入りし、恩返ししたい思いもあります。入団できれば、足だけでなく、さまざまな分野でスピードを生かしていきたい。一軍のレギュラーとして活躍したいと思います」

　和歌山ウェイブスから初のNPB入りを目指す小川は、多くの人の期待を背負っている。

写真=BBM