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【大学野球】投球術を駆使するクレバーな東大・渡辺向輝 プロへの思いを強めるサブマリン

 

9回二死からサヨナラ弾を浴びた立大戦


東大・渡辺は1点リードの9回裏にサヨナラ2ランを浴びた。今季2勝目を目前にして、無念の一球となった[写真=矢野寿明]


【10月26日】東京六大学リーグ戦第7週
立大3x−2東大(立大1勝)

 マウンドでひざまずいたまま、動けなかった。2対1で迎えた9回裏二死一塁。東大の先発・渡辺向輝(3年・海城高)は1ボールから得意のシンカーを投じたが……。立大の五番・柴田恭佑(4年・東明館高)に、右越えのサヨナラ2ランを浴びた。

 渡辺は8回裏に先制点を許すも、チームは9回表二死走者なしからの3連打で逆転。しかし、渡辺は9回裏二死走者なしから四球を与えると、次打者に痛恨の被弾である。あとワンアウトで勝利から一転して、1点リードを守り切れなかった。東大は1回戦を落とした。

 渡辺は試合後「絶えて、絶えて、チームが逆転してくれましたが、自分のピッチングが勝ち負けに直結する……。最後の1球で、ゲームが崩れたので……。負けてしまった実感はまだ、ありません」と話した。ラストボールのシンカーは「捕手の要求どおりには投げられた。相手打者がうまかった」と、力不足を認めるしかなかった。それよりも、伏線があった。7回裏一死二、三塁のピンチである。渡辺は後続を空振り三振、中飛に打ち取った。

「ギアを上げ過ぎて、体力を消耗した」

 先発完投を見据えた上で、選択を間違えた。勝ちたい思いが、平常心を失ったという。

「ゲームの中で、ギアを上げてはいけないんです。(結果的に)下半身のバランスを崩しました。ピンチでも1点OKや、フライを打たせることなど、冷静に考えることができたはず。(1回から9回を投げ切る上での)力配分。スライダーをひたすら投げて、体が横に回る。それが、力みになりました」

 アンダーハンドの渡辺は、相手の打ち気を逸らすのが持ち味。ストレートの最速は127キロだが、あえてスピードを110キロ台に抑ええて投げている。変化球はスライダー、シンカーをコーナーに丁寧に集める。スローカーブも持ち球としてあるが、この日は「使う必要がない。制球しやすい球種を投げました」。投球術を駆使。とにかく、クレバーな投手だ。

「野球を続けるならば、父親を超えたい」


東大入学後に腕を下げ、現役時代の父・俊介さんとそっくりのアンダーハンドに。立大・木村泰雄監督は「練習する手立てがない」と、攻略への苦慮を語った[写真=矢野寿明]


 先発に定着した今秋、開幕カードの早大2回戦では2回7失点と力を出し切れなかったが、この1敗を機に、投球スタイルを修正。「常に打たせて取ることを心がけている」と、ギアチェンジしない投球に徹した。すると、明大1回戦では8回無失点と試合を作る。慶大戦は先発2試合で結果を出せなかったが、法大2回戦ではリーグ戦初勝利を2失点完投で飾った。かつてアンダーハンドとして活躍した父・渡辺俊介氏(元ロッテほか、日本製鉄かずさマジック監督)からのアドバイスにより、シンカーの配球に手を加えたという。

 なぜ、110キロ台のボールで勝負できるのか。サヨナラ2ランを放った立大・柴田は明かす。

「ゲーム前までは、緩いボールに泳がされないように、ポイントを近く、逆方向を意識していました。ただ、実際に試合に入ると、さされる(詰まらされる)。前(のポイントで)で行こう、と。(チームが収集した)データと、実戦でのギャップがありました。映像でタイミングを合わせてきましたが、渡辺投手のボールには、キレの良さがある。(映像と)本来とは違う感覚でした。バッティングの気持ち悪さがありますので……。(本塁打の打席は)前で打とう、と。体現できました」

 渡辺はこの秋の最終カードとなる立大1回戦は、敗戦投手となったものの、5安打3失点。ゲームメーク能力の高さを披露し、すっかりピッチングのコツをつかんだようである。

 初勝利を挙げた法大2回戦後、本誌取材に大学卒業後の「プロ志望」を明かしていたが、この日、改めて、進路について言及した。

 2日前にはドラフト会議が行われ「可能性があるならば(プロ志望届を)出してみたい。来年になってみないと分からないですが、現実を見ながら判断したい」と語った。

 社会人野球からの勧誘については、断っているとのことで「野球を続けるならば、父親を超えたい。プロの可能性があるならば、続けたい」と力を込めた。トップレベルのステージを目指す上での課題も自覚。「細かい制球力が必要。球速はあと3キロから5キロ上げていかないといけない。球の強さ、質には不安はない。一番は、制球力です」と話した。

 渡辺は今秋、3カードで1回戦の先発を務め、エースとしての足場を固めた。学生野球は残り1年。167cm61kg。東大入学後に腕を下げ、血のにじむような努力と工夫で、対戦する五大学と互角に戦えるだけの心技体を作り上げてきた。まだ、秋のシーズンは終わっていない。東大は立大2回戦で雪辱し、渡辺は勝ち点をかけた3回戦に向け準備する。

文=岡本朋祐
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