週刊ベースボールONLINE

大学野球リポート

【大学野球】学生ラストシーズンの今秋は無念の未登板 ボールパーソンでナインを鼓舞した立大・沖政宗

 

蓄積疲労による故障


立大・沖は東大2回戦後、三塁ベンチの端でエール交換の校歌を歌った[写真=BBM]


【10月27日】東京六大学リーグ戦第7週
立大13-5東大(立大2勝)

 立大は最終カードの東大戦で連勝。7勝7敗1分け、勝ち点2の4位で全日程を終了した。

 100人以上の野球部員を束ねた田中祥都主将(4年・仙台育英高)は有終の美を飾ったラストゲーム後、こう語った。

「最後まで一人も欠けることなく、全力で取り組んでくれた4年生に感謝したい」

 東大2回戦、三塁側のボールパーソン。背番号のないタテジマのユニフォームを着用した立大部員がひと際、大きな声とジェスチャーでナインを鼓舞していた。

試合中はボールパーソンを担当[中央]。ベンチ入りメンバーを鼓舞した[写真=BBM]


 右腕・沖政宗(4年・磐城高)だった。

 秋開幕を2日後に控えた9月12日、東京都内で懇親会が開かれた。加盟6校監督、選手は各6校から主将と、東京運動記者クラブ・アマチュア野球分科会が依頼した指名選手6人が出席。指名選手の一人には立大・沖がおり、壇上では秋の抱負をこう述べていた。

「春は悔しい思いをして終わった(5位)ので、4年生、田中主将(祥都、仙台育英高)を中心に優勝できるように、一戦一戦、頑張ります。東京六大学はすごい投手がたくさんいるので、負けないように、投手として勝ち点と、最優秀防御率を目指して頑張ります」

 力強いコメントを発信したものの、沖はこの秋、全15試合で一度もベンチに入ることはなかった。1年秋にリーグ戦デビューすると、今春までに42試合に登板(7勝9敗、防御率2.77)。安定感抜群で先発、救援とどんな立場も喜んで受け入れ、立大投手陣を支えてきた功労者である。しかし、体は正直だ。蓄積疲労による故障で、学生ラストシーズンの今秋は無念の未登板に終わった。

投手のリーダーとして


三塁ベンチには登板できない沖の背番号11のユニフォームが掲げてあった[写真=BBM]


 ただ、戦力になれなくても、投手のリーダーとして、チームの先頭に立った。また、グラウンド外においては「生活改善委員」の役職を任され、主将・田中を支える立場を担った。ベンチには沖が着けた背番号11のユニフォームが掲げてあった。25人の登録メンバーから外れても、精神的支柱は健在だった。

 東大との学生最後のカード。どんな形でもいいから、チームの役に立ちたかった。責任感の強い、沖の心を突き動かしたのである。

 連勝した東大2回戦後、ボールパーソンはすぐにベンチに下がらないといけない。エール交換。両校はグラウンドにそのまま残った。勝者・立大の三塁応援席から校歌『栄光の立教』が流れた。沖らサポートメンバーは三塁ベンチの端で、声高らかに歌った。三塁カメラ席まで届く、気持ちの入った歌声だった。

 さかのぼれば、2020年。磐城高のエース・沖は21世紀枠でセンバツ出場を決めていたものの、コロナ禍で大会が中止となった。夢舞台は消滅したが、センバツ出場32校が招待された甲子園交流試合(対国士舘高)では、8回4失点完投(チームは3対4で敗戦)。114球の力投は、大きな感動を呼んだ。

 あれから4年が経過した。純朴だった高校球児は、指定校推薦で立大に進学して以降も、何も変わらない。周囲に気配り、心配りができる人間である。野球人生には、続きがある。必ず、這い上がってくるはずだ。立大はこの1年「応援されるチームを目指す」を、合言葉としてきた。一度、接すれば分かる。沖は「応援したくなる投手」である。

文=岡本朋祐
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング