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【大学野球】「野球道」を55項目にまとめた人材育成手法「ベースボーラーシップ教育」

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国際交流を通じた社会貢献


アフリカ野球・ソフト振興機構[J-ABS]の友成代表理事[左]と同機構・石橋氏[右]。野球普及への新たな取り組みを展開している[写真=BBM]


【注】ベースボーラーシップは「一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構」が日本で保有している登録商標

 大学の野球部(学生野球)とは、グラウンドでの練習で日々、技術向上を目指し、試合で勝敗を競うだけが活動ではない。歴史の伝承、文化の継承、先輩など人と人とのつながりを持つこと……。リーグ戦のベンチ入りは25人。100人以上の大所帯では部員個々に役割、やりがいを求める動きが広がっている。その一つが、国際交流を通じた社会貢献である。

 慶大は昨年7月、独立行政法人国際協力機構(JICA)は海外協力隊派遣連携覚書を締結した。一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構(J-ABS)はJICA、慶應義塾体育会野球部と協働で24年から3年間、毎年夏に部員らをガーナへ派遣。今年は8月6日から1カ月間、現役学生6人、OB4人がJICA短期ボランティアとして現地へ向かった。

 慶大野球部出身であるJ-ABS代表理事・友成晋也氏は「野球のチカラを証明する」と強調する。J-ABSはアフリカで野球・ソフトボールを通じた「人づくり」「競技振興」「アフリカとの架け橋」を目指す活動を展開している。

 友成氏はかつてJICAに勤務し、初めての海外赴任先がガーナだった。仕事の傍ら、ガーナ代表の監督を務め、五輪出場を目指した。これが契機となり、ガーナをはじめとしたアフリカ12カ国の野球にかかわってきた約30年の経験から、J-ABSを立ち上げた。

 ミッションは「野球のチカラでアフリカと日本の未来を創る」。ビジョンは3つ。「野球のチカラで人が育つ」「野球のチカラがアフリカで認められ競技が広がる」「野球のチカラが架け橋となり日本とアフリカがともに成長する」。J-ABSではアフリカでの野球指導を通じ「規律」「尊重」「正義」を教える。非認知能力と学力の向上によって、ガーナの社会問題である教育問題を解決することを目的とする。

「アフリカ55甲子園プロジェクト」と題し、日本型野球指導法「ベースボーラーシップ教育」を紹介し、野球普及プログラムを実践。アフリカの55の国・地域に25年かけて展開する計画である。アフリカ8カ国の野球連盟と協定を締結。アフリカの指導者対象に、2日で計14時間かけて行うベースボーラーシップⓇ教育セミナーを8カ国で計15回開催した。受講者多くが満足したという。

日本の教育現場にも


「ベースボーラーシップ教育」とは、日本の野球文化である「野球道」を55項目にまとめた人材育成手法。友成氏は例を挙げる。

「集合時間。アフリカでは設定から1時間後に集まるのが普通です(苦笑)。いかにして来させるか……。野球の特性を使って指導するんです。野球は予測して、準備するスポーツ。野球に置き換えれば、集合時間を守ることができるわけです。そこをメニューに落とし込んでいます」

 慶大の学生たちもガーナにおいて「ベースボーラーシップ教育」の理念に基づいて指導し、その成果の場として、第1回ガーナ甲子園大会を8月31日と9月1日に開催した(他にタンザニア、ケニアで開催実績)。慶大のモットーである努力の先に達成感、喜びを得る「Enjoy Baseball」を伝承した。ガーナの若者、現地のガーナ人指導者たちに「規律・尊重・正義」の精神を植えつけた。教える学生側も、海外で見聞を広げることができた。

 アフリカの教育関係者からは「野球をやる子は人間的に成長し、学業成績も上がる」と高い評価を得ている。友成氏は近い将来、アフリカで浸透しつつある「ベースボーラーシップ教育」を、日本の教育現場にも持ち込みたいと考えている。

 慶大はガーナ大学と協力し、研究を推し進めている。「ベースボーラーシップ教育」が裨益者にもたらす効果測定を長期にわたって行う。「これまでにない画期的な社会への還元かと思います。効果測定は野球が人材育成につながる具体的なエビデンスの収集として期待され、野球の社会的価値、意義を発信することができる」(友成氏)。「ベースボーラーシップ教育」の全55項目は、人として生きていく上で、有益なことばかり。「時を守り、場を清め、礼に始まり礼に終わる」といった所作は、どの世界でも必要だ。野球人口が減少している昨今、新たな教育ツールとして注目される。

文=岡本朋祐

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