スライダーからの脱却
慶大・渡辺は早慶戦初先発。独特なムードの中で1失点完投した。ウイニングボールを手に、笑顔を見せる[写真=矢野寿明]
【11月9日】東京六大学リーグ戦第9週
慶大9-1早大(慶大1勝)
あくまでもチームの勝利を最優先とした中で、個人タイトル争いが早慶戦で繰り広げられた。
4カードを終え、早大・
伊藤樹(3年・仙台育英高)は防御率1.19でリーグトップに立っていた。一方で慶大・渡辺和大(2年・高松商高)は防御率1.23と2位につけていた。
第9週の早慶直接対決。1回戦は2人の投げ合いとなった。慶大打線は難攻不落の相手エース・伊藤を7回5失点で降板させた。対する渡辺は、立ち上がりからテンポの良い投球で、9回1失点で完投した。早慶戦初先発とは思えない落ち着きぶりだった。負ければ早大の春秋連覇が決まるという一戦で、ライバル・慶大が意地を見せた。渡辺は言う。
「序盤から良い感じで、流れ良く行けました。(早大・伊藤に)投げ勝ちたいという思いが、強くありました。結構、気合を入れて臨みました。打線の援護があり、助かりました」
渡辺は今季3勝目。東大3回戦で初完封しており、自身2度目の完投勝利を挙げた。防御率1.19でトップに躍り出た。
初めて規定投球回に到達した今秋、なぜ、飛躍を遂げているのか。主に投手を指導する中根慎一郎助監督は、3つの理由を明かす。
まずは、投手の基本である制球力だ。
「リリースが安定していなかったので、再現性を高めることを追求してきました。『投球ドリル』があるんですが、その項目を一つひとつクリア。投げ込み、シャドーピッチングを通じて、投球フォームを固めていきました」
次に、スライダーからの脱却である。
「甲子園でも投げており(高松商高では
巨人・
浅野翔吾と同級生で3年夏の甲子園8強)、もともと力がある。スライダーは一級品です。ところが、あまりにもスライダーに頼っていたんです。当然、相手打者も対策を練ってきますので、投球を組み立てる上で、引き出しを増やす必要がありました。あくまでも変化球ありきのストレート。投球フォームが安定したことで、いつでも真っすぐでストライクが取れるようになりました」
マウンドを守る自覚
最速149キロ。ストレートは球速表示以上の伸びがある。最大の武器は、鋭く変化するスライダーだ[写真=矢野寿明]
最後に、マウンドを守る自覚である。
「この秋はエースの外丸(東眞、3年・前橋育英高)がコンディション不良でシーズン途中から投げられず、本人としても『やらなくては!!』という気持ちが前面に出ています。春の開幕時点で『外丸を抜かすぐらいの意気込みでやれ!!』とは言っていたんですが、春までは背中を追っていく形でした。ところが、この秋は頼れるエースがいない。目の色が変わり、意識レベルも変わりました」
ストレートは俗に言う回転数があり、140キロ中盤でも打者の手元で伸びる球質だ。最大の武器であるスライダーを軸に、ツーシーム、チェンジアップ、カーブと精度が高い。慶應義塾体育会野球部の公式ホームページの「将来の夢」の欄には「浅野翔吾とプロ野球の舞台で対戦すること」とある。慶大は今秋5位だが、最大の収穫は渡辺の一本立ちである。
「気を抜かずに、ここで連勝して終わりたい」
渡辺には2年生ながら、慶大をけん引するだけの風格が出てきた。
文=岡本朋祐