裏方の専任として広げた活躍の場

早大の初代監督・飛田穂洲氏の教えである「一球入魂」の前で撮影。データ班がチームを支えている。左から3年生・高屋敷、4年生・北村、2年生・大渡[写真=BBM]
東京六大学リーグ戦は第9週の早慶戦で、慶大が早大に連勝し、勝ち点を挙げた。早大と明大が8勝3敗2分け、勝ち点4で並び、優勝決定戦が11月12日に行われる。優勝決定戦は2010年秋(早大10対5慶大)以来、14年ぶり。早大と明大の対決は1948年春(早大5対1明大)以来、76年ぶりである。
春秋連覇を目指す早大にあって、陰からチームを支えているのが、3人のデータ班である。
最上級生のチーフである北村広輝(4年・早実)は中学時代、神戸中央シニアでプレー。一番・遊撃でジャイアンツカップ8強と活躍した。高校は県外に進学する選手が多い中、北村は縁あって早実に推薦入試で入学した。
高校3年時から右肩を痛め、早大でも満足に動くことができなかった。2022年秋のシーズンを終え、新チームに結成の際に同級生の川内脩平(4年・八王子高)からデータ班の打診を受けた。「私の知る限り、1学年上の大坪さん(
蓮弥、札幌第一高)は専任でしたが、他は選手を兼務していました」。北村も裏方の専任として、活躍の場を広げた。
試合結果を専用ソフトに入力。また、東京六大学野球連盟から提供される『トラックマン』の数値も活用しながら、自チームの選手の能力を分析し、相手校の対策を練る作業が延々と続く。対戦するカード1週間前のミーティングまでに、資料を提出。リーグ戦はある程度のデータが収集できるが、大変なのは、全国大会。今年6月に出場した全日本大学選手権では、ネットワークを駆使して、情報を集め、寝る間を惜しんで書類を作成した。
「鈴木(浩文)コーチからは『主観を入れるな!!』と言われています。あくまでも数字と統計を見て、傾向を探るようにしています」
早大は特徴として、大胆なシフトを敷くことがある。あくまでも最終判断は現場だという。
「決断を後押しするまでが、データ班の仕事。決断をして、プレーするのは現場。迷うことを少しでも減らすのが、私たちの役割です」
「プロのアナリストになりたい」
2年生・大渡はな(中大横浜高)は中学時代、バトミントン部でプレー。もともと野球に興味があり、高校野球の観戦を通じて、団体競技にはまった。高校3年間、野球部のマネジャーを務め、大学では別の道でチームに貢献したいと考えていた。
「東京六大学の各校でアナリストが広がっているという情報を目にして、チームの勝利に直接つながる仕事がしたいと思いました」
早大には「アナリスト志望」として入部したが、女子部員であっても特別扱いはない。男子部員と一緒に毎朝、練習の準備を行った。1年秋にチームスタッフとなったが、翌年に新1年生が入部するまで約1年、グラウンド内の雑用を男子部員とともにこなしてきた。
勉強熱心である。野球データにまつわるオンラインセミナーに積極的に参加し、現役アナリストの話を聞いて回ることもあった。ゲームをたくさん見て、男子部員からは球種など、細部まで野球を学んだ。プレー経験はないが、豊富な知識を吸収し、データ化し、選手に正確な情報を落とし込む。「私ができることであれば、何でもしたい」と、要望に応えられるように、いつも万全の準備をしている。
「東京六大学の他の五大学はプログラミング等、組織として、アナリストが確立されている。私が引退するまでには、早稲田も対等できるだけの、同じレベルに引き上げたいと思います。大学卒業後は、プロのアナリストになりたい。野球に関わる仕事がしたいです」
必要とされる場所で活動
3年生・高屋敷透弥(八戸高)は今年2月、同期の大西創志学生コーチ(3年・東京・城北高)からの打診で、3人目のデータ班に加わった。指定校推薦で早大に入学。野球部では右肩を痛め、満足にプレーできなかった。
「3年生に上がるタイミングで、チームの中での立ち位置を見つけたいと思っていました。現状を打開したい思いもあり、必要とされる場所で活動したいという考えもありました」
先輩の北村、後輩の大渡からアドバイスを受けながら、練習中は動画の撮影、各種測定をサポートしながら、経験を積んでいる。
「この秋を終えれば、北村さんから引き継ぐことになりますが、毎年、進化させていきたい。選手へのフィードバックも現状はAチームが中心ですが、さらにその幅を広げていければ、と。毎年、土台づくりをした上で、学年の色をつける。早稲田のデータ班としての仕組みを、揺るぎないものにしていきたい」
すでに、秋のシーズン途中から新チームに向けた学年ミーティングを定期的に開催。活発な意見交換が行われており、スムーズに移行するための準備が着々と進行している。
今秋は明大のとの優勝決定戦まで、データ班はフル稼働。4年生・北村はやりがいを語る。
「データを通して野球を見ると、違った一面、これまで気づくことができなかった新たな発見がありました。野球への学びが、さらに大きくなった4年間でした。この春のシーズン後は主将の印出(
印出太一、4年・中京大中京高)から『ナイス、データ!!』と言われ、報われた瞬間でした。この秋ですか? まだ、言われていません(苦笑)。印出はいつも、その先を見て、チームを回していますので」
すべての戦いが終わってから、感謝を口にする。WASEDAのユニフォームを着られるのは25人。メンバーを支えるスタッフなくして、一つの勝利をつかむことはできない。
文=岡本朋祐