遠かったホーム
早大は打線に決め手を欠き、タイブレークとなった延長10回裏に逆転サヨナラ負けを喫した[写真=矢野寿明]
11月23日 神宮
【第55回記念明治神宮野球大会】
▼2回戦
環太平洋大2x-1早大
(延長10回タイブレーク)
第55回記念明治神宮野球大会の4日目(11月23)の第3試合、環太平洋大が早大との2回戦で、延長10回タイブレークで逆転サヨナラ勝ち。準優勝だった2018年以来、6年ぶりの4強進出を決めた。14年ぶりの優勝を狙った早大は、初戦敗退に終わっている。
早大・
小宮山悟監督は「打てない。その1点だと思います」と振り返った。10月24日のドラフトで
楽天2位指名を受けた環太平洋大の左腕・徳山一翔(4年・鳴門渦潮高)から5安打と、打線がとらえ切れず、10回表の犠飛による1得点に終わった。3、7回を除き走者を出すも10残塁と、ホームが遠かった。
「良い投手だということは分かっているが、打てないでは困る。何とかしようとして練習してきた。課題が明確になった。(3年生以下は)次年度に、忘れずに戦ってくれれば」
背番号11を着ける早大のエース・
伊藤樹(3年・仙台育英高)は9回無失点と粘ったが、1対0とリードして迎えた10回裏一死満塁から、適時打で追いつかれた。ここで、小宮山監督がマウンドへ。「持てる力を出せ!!」と指示を出したが、次打者の初球が痛恨の暴投となり、無念のサヨナラ負けとなった。
「(延長10回まで続投は)本人が投げたいと言うから任せました。何かが足りなかった。本人も分かっているはずです」
背番号11を着ける3年生エース・伊藤樹の力投は報われなかった[写真=矢野寿明]
4年生はこの敗戦で、一区切りである。
「(昨年の新チームがスタートしたのが11月11日)1年以上、やってきましたので『お疲れさん』と。主将・印出(
印出太一、4年・中京大中京高)がチームをまとめて、学生コーチ、副将ら、皆が支えるチームでした。次年度もそういう形ができるようにしてほしい」
チームをけん引した主将・印出は語った。
「最後、こういう形で終わってしまったので、悔しい気持ち。これからの野球人生で、忘れられない試合になる。このメンバーで神宮大会に出場できたのは幸せなこと。勝ち切れなかったので、後輩たちには勝ち取ってほしい」
印出は中京大中京高で2年時(2019年)の同大会で、主将・四番・捕手として初優勝を遂げた。翌春のセンバツ甲子園はV候補だったが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で中止。夏の甲子園出場をかけた愛知大会も中止。これまで、誰も経験したことのない高校3年生を過ごした世代の一人である。
「スポーツさえできない中で『何でなんだよ!!』と思うこともありましたが、こうして今、良い舞台で野球をやらせていただいたので、感謝の思いしかありません。学生野球を通じて、人とのつながり、多くの学びの場がありました。人生の中に凝縮された高校3年、大学4年。素晴らしいステージでした」
徳武さんの直筆メッセージ
一塁ベンチのホワイトボードには11月14日に亡くなった元コーチ・徳武定祐さんの直筆メッセージが貼られた[写真=矢野寿明]
どうしても、勝ちたい理由があった。計18年にわたり、早大の打撃コーチを務めてきた徳武定祐さんが11月14日に逝去。小宮山監督は22日の葬儀・告別式の弔辞で、徳武さんの遺影の前で「最後に神宮大会に勝って、日本一で送り出したいと思っておりますので、もう一度、申し訳ありませんが、最後にお力添えを、よろしくお願いいたします」と述べたが、無念の初戦敗退となった。この日、一塁ベンチのホワイトボードには2022年、徳武さんが学生に寄せた直筆メッセージが貼られていた。そこには、打撃の指示が書かれていた。
10月24日のドラフトで楽天5位指名を受けた三番・吉納翼(4年・東邦高)は、ことあるたびに徳武さんに助言を求めていた。「早稲田のユニフォームを着て戦える幸せを感じなさい、と言われていました。厳しく接していただきましたが、打った時は褒めてくれました。良い報告ができず、とても悔しいです」と振り返った。徳武さんからもらった言葉「泰然自若」を、プロ入り後も貫き、故人の遺志を継いでプレーすることを誓っている。
勝負事は必ず、勝者と敗者に分かれる。最後まで「WASEDA」の誇りを胸に、堂々と戦った。天国にも必ず、届いたはずだ。
今年6月の全日本大学選手権では、青学大との決勝で惜敗。「打倒・青学」を目標に、今秋のリーグ戦では9年ぶりの春秋連覇を達成した。明治神宮大会では力を出し切れなかったが、4年生の功績はしっかりと残る。試合後、早大のメンバーは一塁スタンドへのあいさつを終えた後、ベンチには戻らず、しばらくグラウンドで立ったまま、スコアボードを見つめていた。涙を流す選手もいた。3年生以下は、悔しい現実を受け止めた。2025年春、さらに良いチームになって神宮に戻ってくる。
文=岡本朋祐