熾烈なポジション争い
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2年目の今季、打撃で成長の跡を見せた福永
球団史上初の3年連続最下位に低迷した
中日は、
井上一樹新監督が就任。チーム内では熾烈なポジション争いが繰り広げられることになる。
野球評論家の
伊原春樹氏は週刊ベースボールのコラムで、中日の今季の戦いぶりについて以下のように語っている。
「
立浪和義前監督の下、3年連続最下位に終わった中日は課題がはっきりしているだろう。長年悩まされた得点力不足が解決されないままだ。今季も373得点はリーグ最下位。力のある投手陣を擁しているが、点を取らなければ勝利を得ることはできない。打線強化へ昨オフには
中田翔、
中島宏之、
上林誠知らを獲得したが、彼らが戦力として力を発揮できず。新外国人打者も機能せずに苦しい戦いが続いた。
岡林勇希もコンディションが万全でなかったのか、なかなか状態が上がらずにいたのも痛かった。和製大砲の
石川昂弥も二軍暮らしが長かった。しかし、石川昂は終盤、打撃に粘り強さが出てきたように感じる。簡単には凡打をしなくなったので、来季に期待が持てるだろう。
細川成也は今年も23本塁打と結果を残した。その力は本物だ。細川、石川昂が主軸を打ち、あとは外国人やFAで補強をすれば戦える打線になるかもしれない」
野手陣でレギュラーが確定していると言えるのは、外野を守る細川成也、岡林勇希の2人のみだろう。細川は現役ドラフトから移籍2年目の今季は全143試合出場で打率.292、23本塁打、67打点をマーク。昨年の打率.253から確実性が上がり、出塁率も.368と前年から4分以上アップした。159三振を減らせばさらに打率、出塁率が上がる。本塁打、打点でタイトルを狙えるだろう。岡林は合格点をつけられるシーズンではなかった。右肩の違和感で出遅れると、春先から打撃で試行錯誤を重ねた。夏場以降は打率を上げたが、123試合出場で打率.256、10盗塁は、レギュラーに定着した22年以降でワーストの数字。中堅の守備で3年連続ゴールデン・グラブ賞を受賞したのはさすがだが、攻守で軸になってもらないと困る選手だ。
勝負強さも光る打撃
石川昂弥、
村松開人も成長の跡を見せている。来季は定位置獲りへ大事なシーズンとなる。そして、他球団の評価が高い選手が
福永裕基だ。今季は開幕を二軍で迎えたが、4月下旬に一軍昇格後は打撃で好調をキープし、スタメンに定着した。111試合出場で打率.306、6本塁打、32打点、9盗塁をマークし、OPSは.789。402打席と規定打席には届かなかったが、細川の.846に次ぐチーム2位の数値だった。得点圏打率.318と勝負強さも光った。
在京球団のスコアラーはこう評する。
「厄介な打者です。直球に強いだけでなく、変化球への対応力も昨年に比べてグッと上がりました。もっと注目されてもいい選手かなと。守備でも一塁、二塁、三塁とさまざまなポジションをこなす。ユーテリティープレーヤーで、打撃も高水準の成績を残す選手は球界全体で見てもなかなかいない。来季はチームの軸になる選手だと思います」
「遅咲きの星」として
福永は苦労人だ。天理高、専大を経て日本新薬ではドラフト候補として注目されたが、指名漏れが続いた。心が折れなかったから今がある。入社4年目で中日からドラフト7位で指名を受けた。勝負強い打撃は、大舞台の都市対抗など「負けたら終わり」の一発勝負を経験したことが糧になっている。
福永は「入社した日本新薬ではプロテインを扱う部署でした。出社日数は……(笑)。シーズン中は週によっては行かない場合もありました。社への貢献として都市対抗は絶好のアピール機会。
大勢の方から声援を受ける大舞台です。2年目の2020年からスタメンで出してもらっていました。その年は、東京五輪の影響でプロ野球のドラフト後の開催。指名漏れのあとに2本塁打。また頑張ろうと、自分を成長させてくれて社にも大会にも感謝しています」と振り返っている。
支配下全体で最後の69番目で指名されてから2年。レギュラーに手が届く位置にはい上がってきた。まだまだ発展途上の28歳は「遅咲きの星」として走り続ける。
写真=BBM