気が付けば12月中旬にさしかかり、2024年も残りわずか。25年春のセンバツ大会でどこの高校が出るのか、すでに予想を楽しんでいる人もいるだろう。そんな人々を魅了する甲子園を日本から約5700キロ離れたインドネシアの首都・ジャカルタで再現しようと12月17〜21日の5日間で大会を開催している元甲子園球児がいる。ジャカルタの気温は30度と日本の夏と変わらぬ暑さの中、それ以上に大会を熱いものにしようと奮闘している。大会1カ月前に始めたクラウドファンディング(実施期間は12月26日まで)にかける思いと共に大会への意気込みを主催者の柴田章吾氏に話を聞いた。 やってみて分かる甲子園の偉大さ

甲子園をバックにアジア甲子園を一緒につくってきたドラゴン桜の著者・三田紀房氏[左]と一緒に写真を撮る柴田章吾氏[右]
――12月10日(取材日)ということで大会1週間前になりました。今の気持ちを教えてください。
柴田 想像以上に“甲子園のような大会を開催する”ことは大変なのだと痛感すると同時に、大会1週間前とは思えないほどバタバタしております。
――ちょうど先日、Instagramのストーリーで「人生、ほんとうにうまくいかない」と載せているのを見ました。画面越しでしたが、苦労が伝わりました。
柴田 初めてのことばかりで、毎日心労が絶えません……。
――想像よりもうまくいったこと、うまくいかなかったことがあると思います。まず、うまくいったことを教えてください。
柴田 思った以上に注目をいただけたことかなと思います。最初のころは“野球関係者”しか記事を見ていないことが多かったと思いますが、大会が近づくにつれて、普段野球と接点のない方からも「アジアで甲子園大会を開催しようとしているんだね」と言われることが増えました。
――“野球関係者”以外に広がったなというのは、日常ではどんなときに感じますか?
柴田 今年からシンガポールに移住していることもあり、新しい出会いが増えています。その際に「こういう活動をしていることを周りの人から聞いたよ」と言われたり、「知り合いが大会のスポンサーをしている会社に勤めているよ」といった声をいただきます。また、地元三重県の小学校、中学校から「プロ野球選手を引退後、海外起業しているOBがいることを知ってほしい」という講演依頼をいただけたりもしています。
――地元まで活動が届いているのはすごいですね! では、逆に想像よりうまくいかなかったことは何でしょうか?
柴田 野球大会を開催するだけでしたら、現地の人の協力があればそこまで難しくはないかもしれません。ただ、日本の甲子園を再現しようとインドネシア人と企画を進めているので……。例えば、開会式の入場行進を真似したり、負けたチームは砂を集めたり、大会のルール、ガイドラインをどうするか。甲子園特有の動きって、日本人はなんとなく流れを把握していますよね。ただ、現地の人たちは、「アジア甲子園はいつもの野球大会と何が違うの?」というところから始まり、子どもたちだけでなく、現地の運営の人たちにも伝えないといけない。また僕ら運営も日本の甲子園を主催したことがないので、細かい動きは内部で話し合いながら見よう見まねで準備をしているような状況です。
――たしかに甲子園を見ていたら、だいたいの動きは分かりますよね。見ていない人に伝えるのは難しそうです。ほかに大変なことはありますか?
柴田 準備と資金の工面です。当初試算はインドネシア渡航前のものでして、例えばAという項目は100万円ぐらいでできるだろうと思っていたのが、200万円になったり、規模が変わると1000万円まで膨らんだり、直面しないと分からないことがいくつもありました。また、ありがたいことに国内外、協力いただく方々が増えたことで人件費や経費をどう配分するか、という部分も難しかったです。
――関係者が増えるたびに決めるのは難しくなりますよね。比べるものではないと思いますが、甲子園に出ることとつくること、甲子園に対する熱量は変わらないでしょうか?
柴田 変わります。出るには選ばれないといけないですが、細かい準備は大人がやってくれました。つくる人は責任がありますし、「こうすればいい」という前例がないことが難しいですね。
――前例がないとは具体的にはどんなことがありますか?
柴田 甲子園出場が決まったら、バスの手配をしてくれて、ホテルも予約してくれるので、選手は試合に出るだけですけど、つくる側はそういった裏方的な仕事も含めて全部把握しないといけない。運営側ってこんなにも大変なんだなと思います。我々がやっていることは、朝日新聞さん、
阪神電鉄さん、高野連さん、また各出場校が準備していることを全部しているようなイメージです。甲子園という文化を知らない人たちに教えることもしないといけないですし……。ある程度大枠は決まっているのですが、細かいところは現場に入って一緒に決めないといけません。みんなも初めてのことですので、不安なことはまだいっぱいあるかなという感じです。
――不安が多いと思いますが、甲子園を再現するために、大会期間中はどんなことをしますか?
柴田 甲子園の雰囲気をつくるために、毎日審判や共催団体と僕ら運営はミーティングをします。どこが甲子園らしくて、どこを意識してほしいいかみたいな話をしながら
ブラッシュアップをしていく。最終日にある程度の動きが分かってくれるかなという感じですね。
多くの人に知ってもらいたい

主催者の熱き思いと行動を見て多くの人が、応援をしてくれている。そのうちの一人が寺内崇幸氏[元巨人、写真右]
――なぜアジア甲子園1カ月前にクラウドファンディングを始めたのでしょうか? 始める前の軍資金集めとしてやっている団体が多いイメージですが……。
柴田 これまで地道な広報活動をしてきましたが、より認知を広めたいという想いが一番です。私のことを知らない人たちに向けて、様々な方に応援コメントをいただくことで知ってほしいと思いました。特に、プロ野球選手を通じたアプローチはこのような機会がないとなかなかチャンスはありません。母校の大先輩である
工藤公康(元
西武ほか)さん、
坂本勇人(巨人)選手、
山川穂高(
ソフトバンク)選手、
藤浪晋太郎(メッツFA)選手、
森友哉(
オリックス)選手、
山岡泰輔(オリックス)選手、明治大学時代の同級生3人である
野村祐輔選手(元
広島)、
島内宏明選手(
楽天)、
阿部寿樹選手(楽天)などなど、アジアで開催される甲子園を自分事のように考えてくださるうれしいコメントを多数いただきました。そのような賛同者がいることを世間の方々に知ってもらう機会は、クラウドファンディングと相性がいいと思い決意しました。
――たしかにそうですよね。柴田さんのSNSを普段から見ている私からしても、携わっている人たち全員を知りませんでした。
柴田 ですよね。クラウドファンディングのサイトをつくったことで、これだけ多くの人たちがいることがすぐに分かるので。
――前回もクラウドファンディングをやっていましたが、その違いはなんですか?
柴田 前回は会社を辞めた直後でしたので、活動費という意味合いも大きかったですが、今回はどれだけの人に知ってもらえるかを重要視して、その結果、多くの支援者を募りたい、というクラウドファンディングになっています。
――ありがとうございます。最後にクラウドファンディングを通じて、大会をどうしていきたいか教えてください。
柴田 今年だけでなく、継続的なプロジェクトにするために沢山の方々に知っていただき、ご支援いただける大会を作っていきたいので、ぜひ皆さんも一緒になって盛り上げていただけるとうれしいです。
PROFILE しばた・しょうご●1989年4月13日生まれ。高校3年夏に愛工大名電高で背番号10を背負い甲子園に出場。その後、明大を経由し2012年に育成3位で巨人に入団。15年から巨人の球団スタッフ。16年から外資系コンサルティング会社に入社。19年に起業し現在にいたる。
取材・構成=壁井裕貴 写真提供=柴田章吾