人的補償が必要ないCランク

今季は3勝に終わった福谷だが、FAで引き合いが強い
FA権を行使した
中日・
福谷浩司を巡り、複数球団の争奪戦に発展している。残留を望む中日、投手陣の層が薄い
ヤクルトのほか、
日本ハムも獲得レースに参戦している。
2年連続最下位から2位に躍進した日本ハムはレッドソックス傘下3AからFAとなった
上沢直之の復帰に向けて交渉を行っていたが、上沢は
ソフトバンクに入団。新戦力として白羽の矢を立てたのが福谷だった。
今季は8試合登板で3勝1敗、防御率3.72。球団史上初の3年連続最下位に低迷した中日は先発陣の層が厚いとは言えない。その中でファーム暮らしが長かった福谷に他球団の評価が高いのはなぜか。セ・リーグ球団の元編成部長はこう分析する。
「年俸2000万円で金銭補償、人的補償が必要ないCランクであることは大きなメリットですが、投手としての能力が高くなければ獲得に動きません。直球のキレがいいし、変化球の質もいい。ハマったときはすごい投球をします。一方で課題は安定感です。突然四球を連発したり、痛打を浴びて歯止めがきかないときがある。一軍に定着できなかったのは、この部分が原因だったと思います。裏を返せば、良い球を投げる再現性を高めれば十分に戦力になる。先発、中継ぎと起用法の幅が広いことも魅力です」
研究熱心でストイック
慶大からドラフト1位で入団し、プロ2年目の2014年にはリーグトップの72試合登板で2勝4敗11セーブ32ホールド、防御率1.81をマーク。19年から先発に転向し、20年に14試合登板で8勝2敗、防御率2.64と好成績を残している。21年は自身初の開幕投手に抜擢されたが、5勝10敗、防御率4.53とふるわず、その後は一軍に定着できていない。
ただ、研究熱心で野球にストイックな姿勢は変わらない。今年1月には週刊ベースボールの取材で、「このオフは11月下旬からアメリカはノースカロライナ州のトレーニング施設『トレッド・アスレチックス』に2週間滞在しました。収穫の8割は気持ちの面です。もちろん技術的な指導も受けましたが、2割程度です。現地スタッフから呼ばれていたニックネームは、ビースト(野獣)でした。『もっと自信を持って投げてみろ!』とのメッセージが込められていました。アメリカ最後のブルペンでは『俺はビーストだ! 俺はビーストだ!』と自分に言い聞かせながら投げていました。普段はいつもどおり。マウンド上での振る舞い、雰囲気だけですね。今年はメリハリをつけて、しっかりと投げていきたいと思っています」と意気込んでいた。
1年3カ月ぶりの勝利
開幕を二軍で迎え、4月にリリーフで2試合登板したが登録抹消に。ファームで4カ月過ごし、8月23日の
巨人戦(東京ドーム)で今季初先発すると、6回6安打2失点で初勝利を飾った。試合後は不退転の決意で臨んだことを明かした。
「1年3カ月ぶりの白星になります。初回に2点を取られて、どうなるかと思った瞬間もありましたが、その後は宇佐見(
宇佐見真吾)のリードに引っ張られ、打線の援護もあって何とか抑えられました。勝つまですごく長く感じました。最低限ですけれども、先発の役割を果たせたと思ってホッとしました。二軍で投げてきて、一軍の先発も1年ぶりです。初回に失点して『これが最後かもしれないから、やってきたことをやろう』切り替えました。どんな結果になっても、走り切ろうと思っています。残りのシーズンも頑張ります」
先発で3勝を積み上げ、再び救援に配置転換されると2試合連続無失点ときっちり抑えた。夏場以降のパフォーマンスを見れば、一軍で十分に通用する。今オフはプエルトリコのウインター・リーグに参戦し、力を磨いた。33歳右腕はまだまだ発展途上だ。中日に残留して復活を目指すか、新天地に挑戦するか――。野球人生の岐路でどのような決断を下すか。
写真=BBM