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プロ通算37勝も…他球団の選手が衝撃受けた「魔球の使い手」は

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ボールに強い横回転


1年目に鮮烈なピッチングを見せた伊藤


 今中慎二斉藤和巳吉見一起井川慶は球界を代表するエースとして活躍したが、意外なことに通算100勝に届いていない。全盛期の投球が強烈だったが故障などでピークが長いとは言えなかった。そして、この右腕も記憶に残る投手として語り継がれるだろう。現在ヤクルトで投手コーディネーターを務める伊藤智仁だ。

 社会人野球・三菱自動車京都で投手としての才能を開花させると、バルセロナ五輪で1大会27奪三振の新記録を作り銅メダル獲得に貢献。3球団競合の末、ドラフト1位でヤクルトに入団した。即戦力として期待されたが、そのパフォーマンスは想像を超えていた。150キロを超える直球に加え、140キロを超えるスライダーがピンポン玉のように曲がる。右打者は自分に当たると思ってのけぞると、外角いっぱいに決まる衝撃の魔球に茫然としていた。大谷翔平(ドジャース)が決め球として使っていたスイーパーが話題になった時期があったが、伊藤の伝家の宝刀もこの軌道と重なる。人さし指と中指はボールの縫い目に掛け、リリースの瞬間は2本の指を同じ力で切る。ボールに強い横回転を与えることを常に意識して投げていたという。

強打者たちの証言


 相手球団の強打者たちの証言が、凄みを物語っていた。阪神桧山進次郎は「外角の遠いところから横滑りしてストライクゾーンに来る。僕が出始めのころだったし、こんな球を投げる投手がいるのかとびっくりした」とコメント。通算2480安打をマークした中日立浪和義も週刊ベースボールのコラムで、以下のように語っている。

「私は、基本的に右投手のスライダーに狙いを絞るということは、ほとんどありませんでした。ストレートとの球速差がそれほどないので、真っすぐ待ちでも対応できたからでもあります。気をつけたのは、引っ張りではなく、センター返しの意識を持つことです。よりボールを長く見られるので、ボール球の見極めもできます。ただ、この2人、ヤクルトにいた伊藤智仁投手、佐々岡真司投手のスライダーには苦戦しました。2人の共通点は曲がりが非常に遅いことです。早めに曲がり始めれば、その変化量が大きくても対応できますが、曲がりが遅いので、真っすぐと思って振りにいくと、ヒザ元に球が消え、空振りか詰まった当たりにしかなりませんでした。フォームに真っすぐとの違いがあれば、まだ対応できたのですが、それもなかった」

「私は現役時代、右投手のカットボールに詰まったことはありますが、スライダーで詰まらされたのは、この2人だけです。まさに魔球でしたね。今の選手を見ても、あんなスライダーを投げる投手は誰もいません」

最も印象的な試合


篠塚にサヨナラ本塁を浴びてマウンドでしゃがみ込んだ


 最も印象的な登板試合が、93年6月9日の巨人戦(石川)だ。テレビにくぎ付けとなった野球ファンは多いだろう。伊藤はリーグタイ記録の16奪三振をマークしたが、0対0の9回二死で篠塚和典に右翼ポール際へサヨナラアーチを浴びて敗れた。ベンチに戻るとうなだれたまま動けなかったが、誰もが球界を代表する投手になることを疑わなかった。

 衝撃的な快投を見せた1か月後の7月上旬にケガで戦線離脱し、シーズンを終えている。開幕からの実働3カ月で7勝2敗、防御率0.91。12試合先発で5完投4完封、109回で126奪三振と圧巻の数字で、同期入団の松井秀喜(巨人)に圧倒的な差をつけて新人王を獲得した。だが、ケガは想像以上に重症だった。右肩痛で94、95年は登板なし。ここからはい上がる。97年に7勝2敗19セーブ、防御率1.51でカムバック賞を受賞し。翌98年は6勝11敗3セーブ、防御率2.72で、158回2/3を投げて自身初の規定投球回数に到達し肘、肩が万全の状態とはいえず99、00年に8勝をマークしたが、限界が近づいていた。01年に1試合登板のみに終わると、オフに3度目となる右肩の手術を受ける。

 野球の神様は残酷だ。一軍登板なしに終わった02年に秋季コスモスリーグで登板した際に右肩を亜脱臼。球団から引退勧告を受けたが、伊藤は肩に負担が掛からないナックルボーラーで再起を目指した。懸命のリハビリも03年は2年連続一軍登板なし。現役最後の登板は同年10月の秋季コスモスリーグ・巨人戦。直球の最速は109キロだった。
 
 通算成績は127試合登板で37勝27敗25セーブ、防御率2.31。だが、マウンドで見せた強烈な輝きと、度重なる故障にも懸命なリハビリであきらめなかった姿を、野球ファンは忘れない。

写真=BBM

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