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なぜ春、夏の甲子園大会において「審判員」は「審判委員」と呼ばれるのか

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高校野球の対外試合解禁日に


3月18日のセンバツ高校野球大会の開幕を前にした3月1日、兵庫県明石市内で第1回審判委員研修会が行われた[写真=BBM]


 3月1日は高校野球の対外試合解禁日である。全国各地で11月末以来となる球音が戻ってきた。明石トーカロ球場では、第97回選抜高校野球大会の第1回審判委員研修会が行われた。同大会に委嘱された47人のうち、在阪居住者を中心に31人が参加。社高と神戸弘陵高の練習試合のダブルヘッダーでジャッジした。

 日本高野連・尾崎泰輔審判規則委員長は言う。

「2校の選手たちのご協力と、阪神甲子園球場と似た土、芝生の立派な球場を借りていただいての実戦練習の機会に、感謝しております。審判委員にとっては『大会に向けて行くぞ!』と気を引きめる場となり、心と体を整えた上で、3月18日の開幕に臨みたいと思います」

 2年に一度改訂する「高校野球審判の手引き」の内容、公認野球規則の改正も確認。また、球審が判定するハーフスイングなど、審判委員のジャッジにおける「ジェスチャーの統一」についても、他団体も参考にして、新たな表現方法の一部導入に踏み切った。

「高校野球では教育的な部分の配慮もあり、歴史的に高校野球特有のジェスチャーがありました。学生野球の審判員はなり手不足が課題。新たにアンパイアを志す人材は、貴重な存在です。大学、社会人など他団体の審判員も兼ねられるように、他のカテゴリーに合わせたジャッジを取り入れるようにしています」

 2023年5月から同職である尾崎委員長は、他団体との交流も積極的に行っている。昨夏の選手権大会期間中には、NPB審判員関係者が甲子園で視察し、同大会の審判委員と意見交換。コロナ禍を除き1996年から28回、毎年1月にプロとアマチュア合同で研修会を実施している。昨年12月にはNPB審判アンパイアスクールに高校野球の審判員3人が初参加し、勉強を重ねた。「最新、最高峰の技術を学ぶ機会に恵まれた」(尾崎委員長)。2月22日には全日本大学野球連盟の審判研修会(平塚)に、審判規則委員を1人派遣している。

「毎年、センバツは難しい」


 なぜ、春、夏の甲子園大会において「審判員」は「審判委員」と呼ばれるのか。大会運営を担う役員の立場を、明確にしているからである。「審判委員」のトップである「審判委員長」は日本高野連会長が務める。歴史的背景を日本高野連・井本亘事務局長が説明する。

「長く日本高野連会長を務めた第3代の佐伯達夫氏(1967~80年)、第4代の牧野直隆氏(1981~02年)も、かつては審判員でした。春のセンバツは毎日新聞さんと日本高野連、夏の選手権大会は朝日新聞社さんと日本高野連が主催していますが『グラウンドは、高野連が見る』という方針だったようです。審判委員は『グラウンドティーチャー』という位置づけがあったとも聞いています」

 日本学生野球憲章で「学校教育の一環」と定められ、ルールに沿って、厳正に試合を裁く審判委員は「先生」なのである。試合を動かすアンパイアがいなければ、ゲームは成立しない。高校野球に限らず、対戦チームをリスペクトするのはもちろんのことだが、選手は審判員と一緒に試合を作り上げていくという、尊敬の念を忘れてはいけないのである。

 審判委員研修会は、朝から夕方前まで行われた。高校球児があこがれの地、甲子園への準備を進めているのと同時に、アンパイアも最高のコンディションを目指している。尾崎委員長に、この日の「成果」について聞いた。

「毎年、センバツは難しいんです。私たちにとっても、甲子園が2025年の公式戦最初の試合であるからです。皆さん、仕事、家庭を抱えている中でも、今大会に向けて万全の調整をしていただいている。成果? ないです。現役アンパイアである以上『これで良かった』というのはありません。100点満点の試合なんて、存在しないんです。研修会は心の支え。大会本番で成果を出さないと意味がないです」

 尾崎委員長も2009年夏から23年夏まで春、夏の甲子園で審判委員を務めた。現在は運営側として、現役審判委員を強力サポート。研修会中は、グラウンドから引き揚げてくる一人ひとりに声をかけている姿が印象的だった。

 開幕前日には西宮市内の球場で、第2回研修会が予定されている。阪神甲子園球場では、開会式のリハーサルが行われている時間帯だ。審判委員全員が集合し、最終的な総合練習を実施。研修会後は、甲子園に移動して球場内周りをチェック。実際にその目で見て、グラウンドルールを確認する。試合は、審判委員と選手が作り上げていく。その原点を再認識するとともに、審判委員も相当な覚悟でグラウンドに立っている事実を理解すべきである。

文=岡本朋祐

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