「任せる」ではなく、「委ねる」

横浜清陵高は1回戦で春1回、夏6回の優勝を誇る伝統校・広島商高と対戦する。写真は1月24日、選抜選考委員会当日の発表を受けての取材対応[写真=川口洋邦]
第97回選抜高校野球大会の組み合わせ抽選会が3月7日、大阪市内で行われ、出場32校の1回戦の対戦カードが決まった。
21世紀枠で春夏を通じて初出場の横浜清陵高は大会4日目の第1試合(21日、9時開始)で、古豪・広島商高と対戦する。横浜清陵高・野原慎太郎監督は昨年11月の明治神宮大会準優勝校である相手校の印象を、こう語った。
「チームで徹底して戦ってくる、素晴らしいチーム。力のあることは、分かっています。難しいチームに挑戦していくのが、神奈川で戦ってきた野球。私たちがチャレンジしていくには、ふさわしいチームです」
横浜清陵高は神奈川県の公立校として、1997年春の横浜商高以来のセンバツ出場。ただし、同校は横浜市立であるため、県立校に限定すれば、54年の湘南高以来、71年ぶりである。東海大相模高出身の野原監督は2000年春、控え投手としてセンバツ優勝を経験。25年ぶりの甲子園も立場、状況も異なり、冷静だ。
「決められたところで、対応する。自分たちがどういう野球をするか、これから選手たちと考えていきたい。『やる野球』の準備を徹底して取り組む。そういうふうに、神奈川でも戦ってきた。まだまだ試行錯誤ですが、できる限りの準備をして臨みたいです」
センバツ21世紀枠は2001年(第73回大会)から、特別枠として導入された。野球の実力以外に困難克服、地域貢献、文武両道、創意工夫した取り組みなど、特色ある学校が選ばれ、
阪神甲子園球場に招待されてきた。神奈川は過去24年、8都県で唯一、関東・東京地区での推薦も受けたことがなかった。今回は県勢初。なぜ、21世紀枠で評価されたのか。
生徒と指導する顧問が「自治」という共通認識を持っており、部員たちが主体性を持って部活動を作り上げている。野原監督は「自治」のニュアンスについて、説明したことがある。
「委ねている。任せているのではない。部員が考えて、私も意見を言って、また考えて一緒に擦り合わせている作業が運営のメーンなので(生徒たちに任せるという)怖さはありません。それが自分たちのメニュー、ルールになっており、時間がかかること以外は、納得して、部として進めています」
「自治」が浸透しているからこそ、相手を見るのではなく、自分たちの野球を貫けばいい。強豪校にも臆することがない。この4年で春1回、夏1回、秋1回、県大会で準々決勝に進出。私学優勢の神奈川で、トップレベルの県立校として、各校から警戒されている。横浜清陵高に目立った選手はいないが、部員25人による「徹底力」が、最大の武器としてある。
日々、甲子園で勝つために
部活動を通じて、何を目的にしてきたのか。ブレない思いがある。主将・山本康太は言う。
「自分たちは甲子園で勝つために、日々を過ごしてきた」
センバツ選出は、あくまでも大会主催者からの「招待」である。野原監督は「そのために、何かをやっていることは一つもない。1日1日、1週間1週間、真摯に過ごしていたら、こういう状況になった。毎回、優勝をしたくてやっているので、結果が出たとは思っていません。昨秋もまた、途中で負けた(県準々決勝敗退)と思っています。今までの自分たちにプライドを持って、今まで通りの目線と基準に、張り切ることなく、真摯に取り組みたいと思います」と、受け止める。夢舞台・甲子園を控えても、取り組みは何も変わらない。変わってしまえば、過去を否定することになるからだ。
野原監督は「愚直。誠実。打てば、響く」と、部員25人の人間性を高く評価する。チームを束ねる山本主将は自覚と責任を語る。
「私たちは神奈川でやってきた野球が認められ、21世紀枠で選んでいただいたと思っています。なぜ、私たちがこの立ち位置にいるのか、ミーティングで何度も話し合ってきました。1月24日の選抜選考委員会後、神奈川県高野連の榊原(秀樹)専務理事が学校にお見えになって、榊原先生がされたプレゼンの内容、その後の選考過程についての説明がありました。一般選考枠は野球の結果で選ばれますが、21世紀枠は別角度からの選考です。そこで、キーワードとして出たのが『自治』でした。甲子園でプレーする中で、この『自治』を体現するのは難しいかもしれませんが、相手校さんを研究してきた準備を、グラウンドで成果を発揮する場になります。それが自治。甲子園では、勝ちにこだわりたいと思います」
1回戦で対戦する広島商高・荒谷忠勝監督は横浜清陵高について、こう語った。
「特長を持って、やられている。監督さんの情熱だと思います。チームとして考えて動いている印象があり、素晴らしいと思います。私たちは相手校さんのこともありますが、常日頃から鍛え上げてきたことを出すのが、高校野球で一番大事なことだと思っているんです。春は天候に左右され、調整も難しいですが、良い準備をして、試合当日を迎えたい」
両校とも方針が明確であり、1球への執着心も、植え付けられている。「徹底力」が絡み合い、1点をめぐる攻防から目が離せない。
文=岡本朋祐