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中西太、優しき怪童

『中西太、優しき怪童 西鉄ライオンズ最強打者の真実』/26 栗山英樹氏は言う。「三原ノートは本当に素晴らしい。情報がさほどなかった時代に、ここまで考えられたというのは、どのくらい大変だったか。想像を絶します」

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あれは奥深いところに導いてくれる辞書のようなもの


中西太、優しき怪童』表紙


 2023年に亡くなられた元西鉄ライオンズの中西太さん。このたび怪童と呼ばれた中西さんの伝説、そして知られざる素顔を綴る一冊が発売されました。

 書籍化の際の新たなる取材者は吉田義男さん、米田哲也さん、権藤博さん、王貞治さん、辻恭彦さん、若松勉さん、真弓明信さん、新井宏昌さん、香坂英典さん、栗山英樹さん、大久保博元さん、田口壮さん、岩村明憲さんです。

 今回は栗山英樹さんとの話です。(一部略)。

 2012年、栗山英樹が日本ハム監督に就任した。ヤクルトを1990年限りで引退してからスポーツジャーナリストとして活躍し、コーチ経験なしでの監督就任でもあった。

 中西とのコーチと選手の関係はルーキーイヤーの1984年途中までだったが、引退後もずっと「もっともっと中西さんの打撃論を聞いてみたい」と思っていたという。

 20年ほど前、取材の形で、それが実現。話は何時間にもわたる熱いものとなり、打撃だけでなく、中西の血肉となっている三原の野球論にも広がっていった。

 その場で「これを読んでみなさい」と見せてくれたのが「三原ノート」だった。頼んで1日だけ借り、全ページのコピーを取った。

「本当に素晴らしいものです。今の時代の野球の考え方というならまだ分かるんですが、昭和30年代、情報がさほどなかった時代に、ここまで考えられたというのは、どのくらい大変だったか。想像を絶します。しかも、まったく古くない」

 以後、三原ノートを数えきれないほど読み返し、そのたび多くのものを得た。監督となってからはいつも手元に置き、時にそのなかの言葉を監督室の黒板に書き出したりもした。

 中西は目を細め、言う。

「三原ノートは栗山君以外の人にも貸しているけど、そこに自分自身の経験が出てこなければ、やっぱりダメ。言うなれば、あれは奥深いところに導いてくれる辞書のようなものだからね。野球はこうあるべき、配球はこうあるべきと偉そうに話す人はいっぱいいるけど、それを分かりやすくかみ砕いて選手たちに伝えてあげないとただの自己満足。栗山君は、それがしっかりできている」

 三原ノートを通じ、栗山は中西だけでなく、三原との師弟関係が生まれたと言っていいだろう。面白いのは栗山が日本ハム監督となったことだ。1974年創設時の初代球団社長の三原、初代監督の中西とつながったのだから。

 栗山は監督就任以来、毎年、三原の墓参りをし、監督室には三原の写真と中西からもらった三原直筆の「日々新たなり」と書かれたものを額縁に入れて飾っていた。

「リーグ優勝をしたとき、中西さんに連絡をしたら、『オヤジも喜んで見守っているよ』って言われ、すごくうれしかったんですよね。やっぱり僕のなかで、中西さんを通して三原さんっていうのが日本最高の監督像にあって、翔平(大谷翔平)の使い方とかでも、これが三原さんだったらどういう起用法をするんだろうと考えたりもしますから」

 2016年の日本シリーズ後、中西家で対談してもらったときの言葉だ。

 大谷の二刀流がピタリとはまりMVPにもなった年だったが、始めたばかりで賛否両論がにぎやかだった時期に相談された中西は、二刀流を強く勧めたという。

「やりなさい、三原さんも喜んどると言ったことがある。オヤジも昔、二刀流をさせとったしね。野球選手は、だいたい高校時代まではエースで四番。みんなその力はある。ただ、両方できたとしても、全員にさせても仕方がないんじゃ。

 栗山君は、大谷君の力を見抜き、厳しいところで勉強させているんだね。話題づくりみたいなもんとはまったく違うよ。それによって、本人が成長するという確信があってこそだ。

 バッティングが投球にもプラスになっている。バッティングをしているから、あれだけ長身の選手でもバランスがよく、体にキレがある。瞬間的なグッというキレだね。あのキレがあって、下をうまく使えるから大谷君は高めに伸びるストレートを投げることができる。低めの球は、いいポイントで打てば、それなりに飛ぶ。でも、高めに大谷君のような長身投手が速球を投げると、振らされて空振りになったり、そのあと低めのフォーク、スライダーが効果的になるんや。

 ピッチングをしていることでバッティングにもいい影響が出ている。フットワーク、重心の移動がすごくよくなっているしね。

 これは、長所を生かすという、三原さん以来続いている伝統でもある。人を見て法を説けと言うじゃろ。その人の長所を見抜き、伸ばし、育てる。バッティングでも、ピッチングでも、その人なりのタイミングや合ったフォームを身につけさせるのが一番いい。栗山君は、それがうまい」

 大谷の二刀流だけではない。中西は栗山に三原監督との共通点を感じることも多かったと言っていた。

「いいことばかり言うわけじゃないよ。三原さんも、ダメなものはダメという厳しさがあったけど、若い者を萎縮させなかった。栗山君も同じだね。

 優しい顔はしているけど、芯は強い。ピシッとした信念がある。情は人一倍あるんだけど、これ以上、情に棹させんな、というときはパッとできる。中田(中田翔)君(現中日)に代打を出したときもそうさ。スパッと代えたよね。あれでほかの選手もピリッとした。中田君は、本当はすごくいい子なんじゃが、テレンコテレンコしてるときがある。わしと同じで顔で損しとるしな(笑)。

 要は、公平さと適材適所ということ。そのためには当たり前のことを当たり前にやればいいんだが、これが一番難しいんだ」

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