キャンプからいい状態

オープン戦で好調な打撃を見せている上林
猛アピールで
中日の外野の一角を狙うのが、プロ12年目を迎えた
上林誠知だ。
春季キャンプから状態の良さは目立っていた。2月15日の練習試合・
DeNA戦(宜野湾)で、初回に
伊勢大夢から右翼に先制2ラン。対外試合では今季チーム1号となる本塁打だった。オープン戦でも長打力で魅せる。3月12日の
オリックス戦(バンテリン)で、同点の8回に
阿部翔太の直球を右翼席へ運ぶ決勝ソロ。普段はクールな男が、ベンチ前で両手を広げガッツポーズした姿が今年への思いを表していた。14日の
西武戦(小牧)でも、1点を先制された直後の初回一死一塁で
上田大河の直球を右翼に運ぶ2試合連続アーチ。打った瞬間に本塁打と分かる完璧な打球だった。
ソフトバンクに在籍していた高卒5年目の18年に、全143試合出場で打率.270、22本塁打、62打点、13盗塁をマーク。長打力と俊足を兼ね備えたスケールの大きいプレースタイルで「トリプルスリーも狙える天才」と称された。だが、翌19年以降は3年連続打率1割台と伸び悩んだ。その後も輝きを取り戻せず、23年オフにチームの戦力構想から外れる形で退団した。
手を差し伸べてくれた中日に恩返ししたい。「1度死んだ身だと思っています。自分を救っていただいたのが中日ドラゴンズさん。チームのために全力で頑張りたい」と入団会見で巻き返しを誓ったが、移籍1年目の昨年は2月の春季キャンプで右脇腹を痛めて戦線離脱して出遅れた。開幕3戦目の
ヤクルト戦で一軍昇格し、マルチ安打と好スタートを切ったが一軍定着できず、8月下旬以降はファーム暮らしに。46試合出場で打率.191、1本塁打、3打点と不本意な成績に終わり、チームも球団史上初の3年連続最下位に沈んだ。
開幕スタメンの可能性も十分
結果を残さなければ、来年もユニフォームを着られる保証がない立場になっていることは本人が自覚している。外野の定位置は
岡林勇希、
細川成也が確定で残りの1枠を巡り、熾烈な競争が繰り広げられている。新外国人のボスラーが上半身のコンディション不良で戦列を離れており、好調をキープしている上林が開幕スタメンを勝ち取る可能性は十分にある。
紆余曲折を経たが、29歳とまだまだ老け込む年ではない。同学年は
松井裕樹(パドレス)、
森友哉(オリックス)を筆頭に、
東克樹(DeNA)、
田口麗斗(ヤクルト)、
若月健矢(オリックス)がチームの主力選手として活躍。ソフトバンクでチームメートだった
周東佑京は球界を代表するスピードスターになり、
大竹耕太郎も22年オフに現役ドラフトで
阪神に移籍して2年連続2ケタ勝利と輝きを放っている。
『運命を愛し、希望に生きる』
上林は度重なる故障で上昇気流に乗れない時期が続いたが、ある言葉を大事にしていた。23年5月に週刊ベースボールの取材で以下のように語っている。
「『運命を愛し、希望に生きる』という言葉が、僕の座右の銘です。仙台育英高時代の佐々木監督(順一朗、当時)の言葉で、(高校の)室内練習場にも張ってあったんですよね。野球部にとって部訓じゃないですけど、みんな好きな言葉なんじゃないかなと思います。何か起きたときってマイナスに捉えがちですが、考え方によってはその後が好転する。それを信じてやってきました。特にケガしたときとかもそうですし。プロに入ってから本当に何度も助けられた言葉。現状を受け止めて、楽しく。応援してくださるファンの方や、病気だけど頑張っている方、そういう人たちのためにも。そう思ってプレーすることが活力になっています」
昨年の373得点はリーグワースト。2ケタ本塁打をマークした選手は、23本塁打を記録した細川だけだった。上林が本塁打を量産する活躍を見せれば、打線に大きなプラスアルファをもたらす。過去の栄光を追い求めるのではない。進化した姿でファンを喜ばせてほしい。
写真=BBM