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センバツ2025

【センバツ】荒木大輔氏「早実対高松商」観戦記「甲子園とは選手たちを成長させる場所」

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投球の幅が出ていた早実エース


荒木氏は早実時代、1年夏から3年夏まで5季連続で甲子園出場。通算12勝5敗と、思い出の詰まった特別の場所だ。横断幕にある「去華就実」は早実の校是である[写真=BBM]


【観戦記】早実OB・荒木大輔
第97回選抜高校野球大会
3月22日 第1試合
早実(東京)8-2高松商(香川)

 早実OBの荒木大輔氏が、高松商とのセンバツ1回戦を観戦した。両校の選手たちは甲子園で躍動。「伝統校対決」について語った。



 高松商と早実は、センバツ大会で101年ぶりの対戦でした。1924年春の第1回大会決勝では、2対0で高松商が優勝。翌25年夏の決勝でも顔を合わせていますが、5対3で高松商が全国制覇。甲子園球場に足を運ぶたび、きれいに整備された内野の黒土、外野の緑の天然芝、青空のコントラストに魅了されます。今回はさらに加えて、高松商と早実のユニフォームを見て、歴史の重みを感じました。

 高松商のストッキングには、6本のラインがデザインされているんです。センバツ大会の優勝を意味する白の2本線、夏の選手権大会の全国制覇を表す赤の2本線、秋の国体(現国スポ)の優勝を示した黄色の線、さらには明治神宮大会優勝の水色の線が入っています。早実は100年前に対戦した当時のユニフォームは、現在のエンジではなく紺であったと、先輩から聞いたことがあります。

 試合は早実が8対2で勝利。攻撃面ではバントを1球で確実に得点圏へ進めるなど、やるべきことが徹底されていました。ディフェンス面はエース左腕・中村心大投手(3年)の投球が光りました。この日は自己最速を1キロ更新する146キロを計測しましたが、昨年と比較してアベレージが上がり、数字だけでは分からないパワーアップした球質が印象的でした。これは中村投手の最大の持ち味ですが、腕が遅れて出てくるので、相手打線は差し込まれる。対右打者にはカットボールがあり、ストレートは内角も突けるので、もう一つ踏み込めない。投球の幅が出ていました。

 この日は8回で126球を投じたように、球数を少なくすることが課題ですが、ボール先行になっても、粘り強く抑えていました。ボールが乱れても、まとめ上げてくる。昨夏の甲子園、秋の東京大会からの成長です。きっちりトレーニングを積んできた冬場の成果が出たと思います。中村投手は打っても4安打。本来は中軸を打てるバッターだと思いますが、和泉実監督は主将、エースの負担を考慮して、打順を考えているとのこと。それにしても左右に打ち分ける、非凡な打撃センスでした。

 主将としての自覚がものすごく出ていて、塁上でチームを鼓舞するような動きもありました。下級生だった昨夏から一転して、上級生になり責任と覚悟が随所に見受けられました。

高松商も好チーム


 9回は小俣颯汰投手(2年)が救援し、腕が振れるスタイルは魅力的でした。今大会、早実が上位へ進出する上で、中村投手一人では勝ち上がれない。エースの重荷を軽減させるためにも、控え投手の役割は重要です。

 101年ぶりの対戦。早実の選手たちは、そこまでの意識はなかったと思います。盛り上がっていたのは私たち卒業生ら、学校関係者でしょう。見ている側からすれば、名門の高松商と素晴らしい試合ができたことは、喜ばしいことです。3度目の正直。先輩たちは勝てなかったわけですから、後輩たちは立派です。

 点差はやや離れましたが、高松商は好チームでした。登板した4投手は全員に将来性があり、打線もクリーンアップが強力。一番で主将の山田圭介内野手(3年)の粘りも見事でした。高松商・長尾健司監督の下、鍛えられている感想を持ちました。夏に期待です。

勝利の校歌は格別


高松商と早実の1回戦は、第1回大会決勝以来の顔合わせ。101年ぶりの対戦は、早実が8対2で勝利し「3度目の正直」を果たした[写真=宮原和也]


 あらためて、甲子園とは選手たちを成長させる場所であると感じました。昨年11月、二松学舎大付と早実との東京大会決勝を観戦しましたが(早実は延長12回タイブレークの末、5対6で敗退)、昨秋とは別のチームになっていました。今年1月のOB会でも話に出ましたが、早実の歴代監督は細かい指導をあまりしません。放任という意味ではなく、自分で考えて、動くスタイルが浸透しているんです。1957年春、王貞治さんがエースとしてセンバツ優勝した際に率いた宮井勝成監督、私の恩師である和田明監督、そして、現在の和泉監督にも脈々と継がれた指導ポリシーです。

 アルプス席の大応援が、選手の背中を後押ししているのは間違いありません。主体性を重んじており、そこで得た結果というのは、絶対的な自信になります。和泉監督は試合前、『一冬の成長は、今日の試合を見れば答えが出る。ゲームで結果を残せなければ、成長ではない』と話していましたが、高校生は公式戦で大きく変わります。私たちの時代が象徴的でしたが、そこまで力がなくても、なぜか試合が終わったら勝っていた。先輩からつながれてきた様々な要素が組み合わさり「伝統の力」が生まれていたのかもしれません。

 勝利の校歌。格別でした。噛みしめて歌いました。こうした好ゲームが展開できたのも、高松商という素晴らしい相手があったからこそ。「Fair play」(フェアプレー「Friendship」(友情)「Fighting spirit」(闘志)。高校野球が目指している3つの「F」、その基本理念が詰まった2時間24分でした。

文=岡本朋祐

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