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育成入団から4カ月で支配下昇格…剛速球右腕が「新人王のダークホース」に

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オープン戦で5試合連続無失点


実戦で力強いボールを投げている工藤


 オープン戦を3勝5敗4引き分けで終えた阪神。明るい材料は多い。高卒3年目の門別啓人が今春の実戦で計7試合登板し、25回2/3を投げて防御率0.00と抜群の安定感で先発ローテーション入りをつかんだ。若手成長株の前川右京も打撃好調を維持し、「六番・左翼」が当確に。そして、最も大きなサプライズがこの右腕だろう。育成入団から4カ月で支配下昇格し、開幕一軍を確実なものとしている最速159キロ右腕・工藤泰成だ。

 150キロ台中盤の直球をストライクゾーンにどんどん投げ込み、フォークとのコンビネーションで打者をねじ伏せる。その投球スタイルは現役時代の藤川球児監督をほうふつとさせる。オープン戦で5試合連続無失点。2月の練習試合で登板した2試合、プレシーズンマッチのカブス戦も含めて実戦8試合に登板して1点も奪われなかった。

 決して状態が良いときばかりではない。だが、そのコンディションで結果を出したことに大きな価値がある。オープン戦最終登板となった3月22日のオリックス戦(京セラドーム)では8回に登板して二死一、三塁のピンチを招いたが、決定打を許さない。2021年に本塁打王に輝いた杉本裕太郎を143キロのフォークで空振り三振。156キロの直球を投げ続けた後の高速フォークに杉本の体は泳がされる形となり、バットが空を切った。

支配下指名されなかった悔しさ


 昨秋に四国IL/徳島から育成ドラフト1位で指名され入団。NPBに挑戦できることに喜びを感じる一方で、支配下で指名されなかった悔しさがあった。「頑張らないといけないなっていうので、ガッツポーズとかはできなかったですね、あんまり」。なぜ、支配下ドラフトで名前が呼ばれなかったか。徳島を訪れた阪神のスタッフがかけた激励の言葉が明確にしていた。「制球力が良くなれば、上でも十分勝負できる実力がある」。工藤は「自分の持ち味をしっかり評価していただいて。僕も課題が制球力っていうのは、ずっとあったので。課題に関しては予想どおりだなっていう感じです」と冷静に受け止めていた。

 最速159キロの剛速球は独立リーグの中でも際立っていた。昨年は20試合登板で8勝1敗1ホールド、防御率2.91。前期は四死球で走者をためて痛打を浴びるケースが目立ち、11試合登板で防御率5.17と不安定だったが、後期は9試合登板で防御率0.98の好成績だった。ただ、NPBで通用する投手になるにはさらに制球力を磨く必要がある。ドラフト終了後に父・一範さんは「これからが勝負だよ。指名されなかった人の分まで、頑張らなあかんよ」と電話で背中を押した。

支配下昇格で背番号は24に


 工藤の武器はウエートトレーニングで鍛え上げられた投げ込む剛速球だけではない。強打者にも臆せず強気に投げ込める。強気な性格はプロ向きだ。1日も早く支配下昇格に上がりたいという気持ちが、迷いを消していたのかもしれない。2月の春季キャンプの実戦から好投を続けると、首脳陣の評価も上がっていった。3月6日に大阪市で開催された球団の激励会で、藤川監督が「新たに支配下選手1人が誕生します」と工藤の支配下登録をサプライズ発表。育成枠で入団した新人が開幕前に昇格するのは球団史上初だった。工藤は驚きの表情を浮かべた後に「よろしくお願いします」と頭を下げると、会場は拍手に包まれた

 新たな背番号は24に。23年7月に28歳の若さで逝去した横田慎太郎さんが現役時代に着けていた番号だった。高卒ドラフト2位で阪神に入団した横田さんは将来を嘱望されるスラッガーだったが、17年に病院の精密検査で脳腫瘍と判明。闘病生活を乗り越え、懸命のリハビリでグラウンドに戻ってきたが視覚面の問題で実戦復帰が難しかった。

 野球の神様は、横田さんの野球に向き合うひたむきな姿を見ていた。19年に現役引退を発表した後の9月26日のウエスタン・リーグ最終戦・ソフトバンク戦(鳴尾浜)。当初は9回から中堅の守備に就く予定だったが、平田勝男二軍監督の発案で8回途中から出場した。1096日ぶりも公式戦出場で奇跡が起きる。塚田正義が打った安打を捕球すると、中堅から本塁へノーバウンド送球。俊足の二塁走者・水谷瞬(現日本ハム)を補殺するファインプレーを見せた。想像を超えたパフォーマンスに、涙を流す観客の姿が。このプレーは「奇跡のバックホーム」として、現在も語り継がれている。

 横田さんも天国から見守っているだろう。背番号24を身にまとった工藤は新人王のダークホースになれる可能性が十分にある。サクセスストーリーは始まったばかりだ。

写真=BBM

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