「セーフという確信があった」

全員野球で勝利。投手4人[左から斎藤、吉野、竹中、先発・小畠]でつなぎ、最後は代打・野村[右端]が決めた[写真=矢野寿明]
【4月19日】東京六大学リーグ戦
立大2x-1法大(立大1勝)
勝てば、選手の手柄。負ければ、敗軍の将は兵を語らず。指揮官自らが「力不足」と認める。昨春から母校・立大を率いる木村泰雄監督の指導方針は一貫としている。
立大は慶大との開幕カードを1勝2敗で落とした。昨年も春、秋を通じて、勝ち点をかけた3回戦以降の戦いで力を発揮できずにいた。心身のタフさがチーム全体の課題だった。慶大3回戦から中3日。2017年春以来の天皇杯奪還を目指す上で、もう勝ち点を落とすことは許されない。決死の覚悟で法大戦を迎えた。
立大は先発・小畠一心(4年・智弁学園高)から竹中勇登(4年・大阪桐蔭高)、吉野
蓮(4年・仙台育英高)、
斎藤蓉(3年・仙台育英高)と4投手がリレーし、法大打線を9回1失点に抑えた。この日はプロ併用日のため9回打ち切り。法大の9回表の攻撃を終えた時点で1対1。立大の引き分け以上が決まった。

立大の代打・野村は人生初の一塁へのヘッドスライディング。決死のプレーが先勝につながった[写真=矢野寿明]
9回裏二死走者なしから一番・山形球道(4年・興南高)が右二塁打で出塁すると、連続四球で二死満塁。ここで代打・野村陸翔(4年・立教池袋高)が三塁へのゴロを放った。一塁塁審の「セーフ」の判定により、サヨナラ勝ち。立大の一塁ベンチが歓喜に沸いたが、法大・
大島公一監督は「ビデオ検証」を行使。しかし、判定は覆らず、立大が先勝した。
「無我夢中で走りました。(ビデオ判定も)セーフという確信があったので(検証結果を)楽しみに待っていました。一塁ヘッドスライディングは小、中、高を通じて初めてです」(野村)
四軍扱いの立場からはい上がって

9回裏二死満塁から代打・野村が三塁内野安打。立大のサヨナラ勝ちで一度は歓喜の輪も、法大・大島監督が「ビデオ検証」を行使。判定は覆らず、ジャッジ通りの「セーフ」で立大は先勝した[写真=矢野寿明]
タテジマのユニフォームは神宮の赤土で汚れていた。宝仙学園小時代に東京六大学を観戦し、ピンストライプに強いあこがれを持った。立教池袋中に進学。3年春(2018年)には投手として、東京都大会を制した。
その夏、高校野球の西東京大会決勝で始球式の大役を務めたが「右打者の顔付近への大暴投でした(苦笑)。神宮でリベンジをしたいと思いました」と無念の記憶として残っている。立教池袋高では3年夏の東東京大会4回戦敗退(中堅兼投手)。立大では投手として入部したが、カルチャーショックを受けることに。
「自分たちの代は小畠、竹中、吉野、大越(4年・東筑高)と右ピッチャーがたくさんいる。生き残る道として、大学2年から野手(外野手)に転向しました。(バットスイングで)手の皮はずる剥け(苦笑)。Dチーム、つまり四軍扱いの立場で、苦しんだ時期もありました」
木村監督は必死に汗を流す姿を見てきた。
「スイングの速さ、強さは3年生の段階から目立っていましたが、ゲーム経験を積めていなかった。3年生の後半から、この春のオープン戦にかけて実戦の場を踏み、神宮に立てるようになった。本人の努力の賜物です」
慶大1回戦、代打でリーグ戦初安打を放った。法大1回戦の土壇場で、木村監督に迷いはなかった。「(対左投手で)まだ右打者も残していましたが、(左打者の)野村は慶應戦でも良い働きをしていましたので、決めていました」。指揮官の期待に見事、応えたのである。引き分け寸前で、2時間51分の熱戦を制した。木村監督は人柄あふれるコメントを残している。
「全員で戦えた、選手が全員でつないでくれた良い試合。選手たちに感謝しています」
立大は昨春、勝ち点1の5位、秋は勝ち点2の4位とステップアップしている。この1勝は大きい。誰もが成長を実感したはずである。
文=岡本朋祐