「2つの喜びがあります」

東大の2年生・樋口は開幕から3戦連続安打と打撃好調。早大との開幕カード2戦は九番も、明大1回戦では二番に昇格した。守備でも球際の強さを見せている[写真=矢野寿明]
【4月19日】東京六大学リーグ戦
明大2-0東大(明大1勝)
東大の2点ビハインド(0対2)で迎えた9回表、明大の攻撃である。二死満塁。東大としては、これ以上の失点は許されない場面だ。次打者の二遊間を抜けそうな打球を、東大の遊撃手・樋口航介(2年・海城高)が、持ち味である球際の強さを見せて好捕。一塁走者の二塁進塁を許さず、ピンチを脱した。
第3打席では遊撃内野安打を放ち、開幕カードとなった前週の早大戦から3試合連続安打(8打数4安打)。今春がリーグ戦デビューであり、順調な滑り出しを見せている(チームは0対2で敗退し、開幕3連敗)。
「2つの喜びがあります。リーグ戦の高いレベルを経験できること。また、神宮で応援の中でプレーできること。先輩方が準備を手伝ってくれるので、思い切ってやれている。守備、攻撃とも、これまでやってきたことは間違いではなかった、と。手応えはあります」
小学6年から中学2年まで、父親の仕事の関係で、アメリカ・メリーランド州で過ごした。現地ではMLBを観戦し、
イチローのプレーが記憶に鮮明である。帰国後は海城中に編入。大田水門ボーイズでは、東東京大会で4強入りした。当時から東大でのプレーを思い描いていた。中高一貫の海城高では1年夏から遊撃のレギュラー。当時のエースは、現在の東大の主戦である渡辺向輝だった。
「海城では、とりあえず皆、東大を目指すという流れがあり、それに乗っかった形です。2学年上の渡辺さんが(現役で)東大に入ったので『じゃあ、俺も行こう』と思いました」
主将として臨んだ2年秋の東京都大会では8打数連続安打を記録し、チームをけん引して16強進出。3年夏は東東京大会4回戦進出。野球を引退した後は勉強に明け暮れ、現役で理科1類に合格した。昨秋はフレッシュトーナメントで、神宮での経験を積んだ。
バッティングにも期待
遊撃の定位置奪取を狙った2月のキャンプ中のオープン戦で、足を痛めて離脱。3月中旬に復帰すると、存在感を発揮し、ショートのレギュラーを任された。早大との開幕カード2試合では九番だったが、打撃好調により、明大1回戦で二番に昇格。東大時代に遊撃手だった大久保裕監督は、好評価を与えている。
「走攻守の3拍子がそろっており、野球センスを感じる。もともと、守りで信頼を得た選手ですが、打つほうも期待しています。自分で考えてやれているのが、良いと思います」
主将の正捕手・杉浦海大(4年・湘南高)は度胸の良さを認める。
「フォーメーションやポジショニングなど、開幕直前になって教えた部分がたくさんあるんですが、こちらから確認していたことをよく覚えており、実戦でも体現してくれています。性格としては独特な世界観があり、リーグ戦デビュー時も本人は『緊張しています』と言っていますが、果たして、実際はどうなのか……。こちらからはまったく感じませんでした。ミスなく、ソツなく、ありがたい」
雪辱を期す明大2回戦、さらに残り3カードが控えており、すべてを糧にしていく構えだ。
「(1998年から54季連続で)ずっと6位なので、まずは勝ち点を取って、5位以上を取るのが今の目標です。チームとしても『勝ち点奪取(2戦先勝)』を目標に掲げています。打撃では自分が打つ二番の後ろに三番・酒井さん(酒井捷、4年・仙台二高)、四番・中山さん(中山太陽、4年・宇都宮高)が控えているので、チャンスでいかにどうつなぐか。自分のできることをやっていきたいです」
決して背伸びをしない。練習で取り組んできたことしか、試合では出ないことを理解している。
ヤクルトファンで、好きな選手は
川端慎吾。「強かった時代のスワローズを象徴としている」。背番号42。174センチ70キロの数値以上に、グラウンドでは映える。幼少時代から親しみのある神宮で、大きく飛躍する。
文=岡本朋祐