日々のルーティンは変えずに

東大・酒井は8回裏に右越えのソロアーチ。リーグ戦通算2号である[写真=田中慎一郎]
【5月10日】東京六大学リーグ戦
法大9-3東大(法大1勝)
2対9と大量リードを許した8回裏。二死走者なしから一番・酒井捷(4年・仙台二高)が左打席に入った。ここまで21打数2安打と苦しみ、この日の第4打席である。
「二死から自分が出塁して、足を絡めて点を取ろうと思いました」
法大の先発左腕・野崎慎裕(4年・県岐阜商高)が投じた1ストライクからの2球目のカーブを、右翼席へ運んだ。レギュラーに定着した2年春の早大1回戦以来、通算2号だ。
「本塁打? まったく考えていなかったです。ライトを越えてくれ、と。スタンドまでいくとは……。打った瞬間、それと分かる本塁打であれば良かったですが、必死でそれどころではなかったです(苦笑)」
スタンドインした要因は、3つあった。
まずは、対策である。
法大・野崎のピッチングをVRで徹底的に研究してきた。「対戦経験はあまりないんですが、何回も見てきたような球でした」。投球のイメージをたたき込んできた成果が出た。
次に、修正能力である。
この試合、三振、三振、右邪飛と抑え込まれていた。「外のスライダーに対して、体が開いて空振り。それが顕著な例で、ポイントが前にあったんです。ゲーム後半は逆方向を意識して打席に立っていました」。ボールを引きつける意識が、好結果を呼んだのである。
最後に、技術である。
「初球はカーブで反応ができなかったんです。もう1球、緩いボールが来るかな、と。スライダーかと……。インコースに入ってくる軌道をイメージしながら待っていました」
技ありの一打だった。打撃不振からの脱出のきっかけとなる一打となったはず。東大・大久保裕監督も「ようやく出た。明日につながる一発」と、不動の一番打者の復調を喜んだ。チームは1回戦を落とし、巻き返しの2回戦へ向けても、士気を上げる本塁打となった。
酒井の進路志望は「プロ一本」。過去に東大出身のプロ野球選手は6人いるが、全員が投手としての入団(
井手峻氏はプロ入り後に外野手転向)。野手として、初のドラフト指名を目指している。アピールには、どんな形でも結果が欲しいところが、そこはグッと我慢。開幕以降、結果が出てこない中でも、自身が取り組んできたことをずっと信じてきた。起床から就寝までの日々のルーティンも変えず、ようやく努力の成果を発揮したのである。
1本出れば、流れが変わる。東大は法大1回戦を落として、開幕7連敗。法大2回戦を落とすと、55季連続最下位が決まる。是が非でも回避するためにも、酒井のバットがカギだ。
文=岡本朋祐