父は「東大を応援するからな」

法大・片山は2回裏に中前適時打。先発起用2試合目でのリーグ戦初打点となり、今季初の勝ち点奪取に貢献した[写真=田中慎一郎]
【5月11日】東京六大学リーグ戦
法大12-2東大(法大2勝)
神奈川県川崎市内にある法大川崎総合グラウンド内の大野球場。
片山悠真(3年・八王子高)は、ネット裏に設置されたティーネットで気が済むまでバットを振り込むのが日課だ。相手をしていたのは、
大島公一監督だった。昨年来、ベンチ入りクラスのAチームには入っていたが、リーグ戦登録25人は遠かった。
高校時代は投打二刀流として活躍した。法大入学時は投手も、1年夏に打撃を生かすため、野手に転向した。同春のフレッシュトーナメントから代打で出場し、同秋にはクリーンアップを任された。2年春、秋には四番を務め実績を残してきた。上級生になった今春、ようやくメンバー入り。開幕2カードで4度にわたり代打起用されたが、安打は出なかった。
神宮における試合前のフリー打撃を見たある他校の関係者は「良い振りをしていますね」と絶賛。左打席から快打を連発しており、大島監督が使いたくなるのも十分に理解できた。

法大・片山の父・英治さんは東大の四番として活躍した[写真=BBM]
片山の父は、東大の四番として活躍した英治さん(横浜翠嵐高出身)である。強打の右打者として、4年生だった1994年春はチーム4勝(勝ち点1)で17季ぶりの単独最下位脱出。同秋もチーム4勝(勝ち点1)の原動力の一人で5位になった。1990年代の赤門を代表するパワーヒッターだった。
父の現役時代(4年時)の登録は身長187センチ体重87キロ。右と左で違うが、まさしく息子は、父のDNAを継いだのである。
不思議な巡り合わせがあった。片山は東大1回戦で初先発(三番・左翼)に起用されると、第1打席でリーグ戦初安打(左前打)をマーク。第3打席でも中前打を放った。2回戦では第2打席でリーグ戦初打点を挙げた。父の出身大学を相手に2つの「記録」を記したのも、何かの縁である。あらためて父の話を振ると、意外な返答がかえってきた
「父からは『俺は東大を応援するから』と。父との戦いでもあったのです(苦笑)。ずっと、チャンスで打てなかったので良かった。1本出たので、ここから調子を上げていきたい」
法大のマネジャーによると、片山の父は海外赴任中だという。神宮で息子の雄姿を見られることはできなかったが「東大を応援するから」と明かすのも、真に受けてはいけない。あくまでも、愛情の裏返し。東大時代は皆から頼られる、愛されキャラで、額面通りに受け取るのは大きな間違いなのだ。
試合後のインタビューで「初打点」と初めて聞いた大島監督は、ニッコリと笑った。法大は東大に連勝で、今季初の勝ち点を挙げた。187センチ88キロ。法大のベンチ入り最長身のスラッガー・片山がようやく目を覚まし、残り2カードでさらなる爆発が期待される。
文=岡本朋祐