活気を生み出すことを考えて

慶大は4季連続でフレッシュトーナメントを制した。左から清原、主将・大村[写真=矢野寿明]
【6月18日】
東京六大学フレッシュトーナメント決勝
慶大1-0明大
慶大に明るい光が差している。今春のリーグ戦は昨秋に続いて5位と苦戦。2年生以下でチーム編成するフレッシュトーナメント決勝で明大を1対0で下し、4季連続17度目の優勝を飾った。2年生以下の「若き血」が神宮の杜で躍動したのである。
先発した右腕・鷲見旺宥(2年・岐阜高)が5回3安打無失点で試合を作ると、松井喜一(2年・慶應義塾高)と水野敬太(2年・札幌南高)が2イニングずつをつないだ。打線は4回表二死三塁から相手投手の暴投で先制。虎の子の1点を全員でしのぎ、逃げ切った。
岐阜県屈指の進学校出身である鷲見は相当な覚悟を持って、この試合に臨んでいた。
「チームメートには、甲子園で優勝した代がいる。勝たないといけない代。その中に入っていけるように、取り組んできました。神宮は、最も野球がうまくなる場所です。自分は甲子園に出場していないので、こうした神宮の大きな舞台が、成長するきっかけになる。メンタルの部分でレベルアップできました」

慶大の先発・鷲見は5回無失点で勝利投手となった[写真=矢野寿明]
明大との決勝は気温30度以上の暑さだった。なぜ、タフな戦いを制することができたのか。チームを支えたのはフレッシュトーナメントの主将を務めた大村昊澄(2年・慶應義塾高)である。2023年夏。107年ぶり2度目の全国制覇を遂げた慶應義塾高(神奈川)の主将は、抜群のリーダーシップで「エンジョイ・ベースボール」を体現させた。明大との決勝では丸田湊斗、福井直睦、延末藍太、安達英輝、渡邉千之亮と2年前のV戦士が先発に名を連ねた。ベンチにも当時の甲子園優勝メンバーが控えていた。
「(フレッシュチームの主将は)立候補制だったんですが、手を挙げさせていただきました。2年後にはキャプテンをやりたいと思っている。そのための予行練習ではありませんが、主将としてのチームづくりを学ぶ機会となりました。(3試合を通じて)ベンチスタートでしたが、とにかく自分が先頭に立って動く。活気を生み出すことを考えてきました」(大村)
背番号2。大村のオーラは別格だったという。鷲見は大村のベンチワークをこう明かす。
「ベンチにいる、いないでは、雰囲気がまるで違う。1人で空気を変えてしまう。こんな存在感あるリーダーを見たことがありません」
慶應義塾高でチームメートだった
清原勝児(1年)は、2年ぶりに同じユニフォームで戦い、格別だったという。昨秋までは兄・正吾内野手が慶大に在籍。背番号16を着けたフレッシュトーナメントでは、決勝までの全3試合で途中出場している(4打数1安打)。
「今回のフレッシュトーナメントは、大村の下で優勝したいと思っていました。付いていきたいと思わせるリーダーです。本当に良いキャプテン。大学生活にも馴染み、一つ形となり、高校時代とは異なるメンタルの成長を実感できました。この秋はリーグ戦メンバーに絡めるように、フレッシュトーナメントでは、自分が軸となって引っ張っていきたい」
「将来は塾高の監督に」

フレッシュトーナメントで主将を務めた大村は、神宮の杜を舞った。苦労が報われる瞬間だった[写真=矢野寿明]
大村は「過去の栄光」にすがるタイプではない。冒頭の鷲見のコメントを受けてこう言う。
「(全国制覇した代とは)なるべく意識せず、大学では一からスタートしてきました。明治さん、法政さん、早稲田さん、立教さんも強豪校から集まってきていて、個々で見たら、自分たちよりも実力がある。挑戦者になることが大事。連覇のプレシャーはありましたが、結果を残せたので良かったです」
大村には理想のキャプテン像がある。大阪桐蔭高、慶大を通じて「主将の鑑」としてきた
福井章吾(トヨタ自動車)だ。高校、大学で日本一を遂げた先輩・福井の背中を追い、大村は慶大入学以来「4年時になったときに春秋連覇。全日本大学選手権、明治神宮大会を制しての大学4冠」を目標に掲げてきた。試金石となるフレッシュトーナメントで「形」として残したのは、大きな価値があるのだ。
この日、大村は「メディアさんの前ではあまり言ったことがなかったんですけど……」と前置きをした上で、将来像について言及した。
「卒業後は社会人野球など、選手としてプレーできるところまでやって、その後は、塾高の監督になりたいと思っています。森林(貴彦)さん(監督)に人生を変えてもらった。子どもたちの人生を変えられるような指導者を目指したいと思ったんです。あそこまで、子どもたちのために人生をかける人を見たことがない」
記者席で観戦した慶大・堀井哲也監督は「大村がよくチームを引っ張ってくれた」と目尻を下げ「スタッフを含めて頑張った。このメンバーから一人でも二人でもリーグ戦メンバーに絡んできてくれれば」と期待感を語った。

試合後は大村主将以下、慶應義塾高出身メンバーで集合写真に収まった[写真=矢野寿明]
堀井監督は4連覇の原動力として、決勝で好投を見せた鷲見、松井、水野の投手3人に加え、野手ではマスクをかぶった市橋慶祐(2年・小野高)、二番・右翼の一宮知樹(1年・八千代松陰高)の名前を挙げた。
「塾高以外のメンバーも、ミックスしてもらえれば」。慶大は應義塾高など一貫教育校からの内部進学組に一般入試、指定校推薦、AO入試のほか、さまざまな経路から志して入学してくる。全部員の力を融合させていくのが、チーム運営の伝統である。大村らの「甲子園優勝」は、この上ないプラス材料としての「経験値」。近い将来の慶大を占う意味でも、実りの多いフレッシュトーナメントだった。
文=岡本朋祐