自身のスタイルを見失わず

東大・渡辺は大学日本代表候補合宿に参加。ウォーミングアップではリラックスした表情を見せる。東大の選手が選ばれれば3人目となる[写真=矢野寿明]
初めての侍ジャパン代表候補合宿。東大・
渡辺向輝(4年・海城高)は北海学園大・
工藤泰己(4年・北海高)と同部屋になった。
「以前から名前は知っていたんですが、改めて『最速何キロ?』と聞くと159キロだ、と。『そうなんですね〜』と敬語を使ってしまいました(苦笑)。すごいと思いつつ、優しそうな感じで良い人でした」
セレクション会場の球場に移動すると、さらに、想像を絶する世界が広がっていた。
「周りを見たら皆、速いので、ちょっと、おじけづいた部分もありましたけど……(苦笑)。心境としては『すごいな』と。ウォーミングアップから意識の高さを感じる。話の内容としては『理屈』ではなく『感覚』でしゃべっている。考えて取り組んでいるほうなので新鮮でした」。ややカルチャーショックを受けながらも、自身のスタイルを見失わなかった。
紅白戦(6回の特別ルール)では1イニング、三者凡退に打ち取った。今春の東京六大学の首位打者で、この日の紅白戦でも2打席連続安打を放っていた立大・
山形球道(4年・興南高)を、タイミングを外しての左飛に抑えた。「
阪神・
佐藤輝明二世」と言われ、関西学生を代表する左の強打者である近大・
阪上翔也(4年・神戸国際大付高)に対しては捕邪飛。昨年の大学日本代表で強打捕手の明大・
小島大河(4年・東海大相模高)には、見逃し三振だった。
「今日はスライダーとシンカーだけにして、初見で打ちづらいボールを投げることができたのかな、と。まさか明治の小島選手から見逃し三振が取れるとは、うれしかったです」
渡辺は「初見」と言いながらも、山形と小島は東京六大学リーグ戦で対戦してきた打者であり、相手も球質を良く知っていたはず。そこをきっちり仕留めたのは、価値も高まる。
リポートに記したアピールポイント

父・俊介さん[元ロッテほか]とそっくりのアンダースローで持ち味を発揮した[写真=矢野寿明]
合宿前、全参加者はリポートを提出していた。大学日本代表候補としての立ち居振る舞い、自身の強みは何か、日米大学選手権を戦うにあたってのアメリカ対策の3つである。渡辺はアピールポイントの欄に、こう記していた。
「自分の強みは、相手が狙った打球を出させることができること。フライを打ちそうなバッターならば、スライダーがメーンでフライを打たせる。ゴロを打ちそうならばシンカーで、ゴロに打たせる。配球を工夫して抑える」
ネット裏で視察していたあるNPB球団のスカウト幹部は、渡辺の投球術に目を細めた。
「高めのボールをうまく使っていました。恐らく打ち取りやすいという選択肢として、あえて高めを投げていたのではないでしょうか。見たことがない軌道であり、相手打者も対応が難しかったと思います。お父さんもそのコース、ボールをうまく使っていました。リストアップ? いないタイプなので見ています」
父・
渡辺俊介氏(日本製鉄かずさマジック監督)はNPB、MLBで活躍したアンダースロー。渡辺は海城高時代、オーバースローだった。「(父の投球フォームと)逆を行こうと取り組んできましたが、ムダな動きを省いていくうち、結局、体のつくりも一緒なので、自然と同じ形になりました。大学から始めたアンダースローです」。努力を積み重ねてきた。
NPB関係者が明かしたようにこの日、渡辺は意図的に高めを投げていたという。
「スライダーは、伸びるのが強みの球種です。低めだと、かなりの制球が求められますので……。そこの技術はまだないので、高めの練習をしてきました」
プロ志望届を提出する覚悟

紅白戦で1イニングを無安打無失点に抑えると、一塁ベンチで安堵の表情を見せた。[写真=矢野寿明]
大学日本代表を指揮する堀井哲也監督(慶大監督)は、渡辺と東京六大学リーグ戦で対戦しており、投球内容を高く評価していた。渡辺は先発に定着した昨秋にリーグ戦初勝利を挙げると、今春はエースとして対戦した5カードすべての1回戦に先発。白星はなかったが、早大戦、明大戦では完投し、堀井監督が指揮する慶大戦も7回3失点と、ゲームメーク能力が光っていた。今回は他のスタッフとの選考会議を経て、合宿に招集した背景がある。初日の練習後、感想をこう語った。
「バッターのほうが優勢という立ち上がりの試合。そのスタート(序盤3回で3対3)から(渡辺は5回裏からの救援で)三者凡退。持ち味を出したと思います」
渡辺は今年1月の段階で、大学卒業後の進路について一つの基準を設定していた。
「大学日本代表の候補合宿に行けるくらいになったら(プロ志望届を)出す可能性があると考えています。昨秋は東京六大学の推薦を受けることはできましたが、大学日本代表候補に入ることはできなかった。そこを一つ、乗り越えれば、可能性も生まれてくると思う」
目標をクリアし、プロ志望届を提出する覚悟を固めた。その上で、今合宿へ臨んできた。
「こういうところに来ると、本当にプロを目指している人たちは、こんなにレベルが高いんだ、と思い知らされることばかりで……。正直、今日の練習を踏まえて余計、自分がプロに行くのは厳しいな、と……。ただ、自分のできることをやるだけなので、最後までやり切ってみたいと思います」
東大の選手で大学日本代表に名を連ねたのは1983年の大越健介氏と2016年の
宮台康平氏の2人。「自分が大学入学前から知っている偉大な先輩。そこに肩を並べることができれば、『やり切った』と言いますか、一つの達成感を得ることができる」。今合宿は計3日間。実戦が中心で、23日に26人が発表される。
文=岡本朋祐