プロジェクトの軸は「野球の普及・振興」

「球心会」を立ち上げた王代表は、野球への情熱を語った[写真=田中慎一郎]
有言実行、85歳の熱量に驚かされた。
王貞治氏が代表を務める「球心会」が5月23日に設立し、6月26日に記者会見が行われた。冒頭のあいさつで、野球への愛着を語っている。
「6月初めに長嶋(
長嶋茂雄)さんが亡くなりまして、大変、野球界が騒々しかったんですけど、それだけ長嶋さんの存在が大きかった。と同時に、野球に対する思いを皆さんお持ちになっているということを、再認識させていただきました」
設立の経緯について語った。
「選手としてプレーしてきましたが、野球に対する思いというのは、歳を取っても、年々強くなっている。と同時に、今の野球界、このままでいいのかな、という思いもありまして……。日本の野球界はプロ・アマとしっかりとした組織がたくさんあるんですけど、横のつながりができたらと。我々としては、球心会としてお役に立てる仕事をしようじゃないかと。もっと皆さんに、理解をしやすい組織にして、野球を身近に感じていただくためにも、私自身が情報発信役として、皆さんのお力をお借りしながら、前へ前へと進んでいきたい」
プロジェクトの軸は「野球の普及・振興」だ。各団体で推し進めている既存の取り組みを、より良いものに活性化させるのが目的。子どもたちに夢と希望を与える世界的ヒーローが野球界・スポーツ界から生まれ続ける未来をつくるのが、コンセプトである。
「少子化だからこそ、やらないといけない。野球場が少ない。校庭でキャッチボールができない。バットを振ってはいけない。そこであきらめたら、何も残らない。どういう状況なのかを検討して、まず考えないといけない。球心会として学校、県、市などにノックをし、こちらの話を持っていって、考えを引き出せば、光が見えてくる。遊びの段階からのスタートでも良いので、子どもたちにボールを投げる、バットを振る機会をつくっていきたい。お母さん、お父さんも引き込みたいと思っているんです。実際に体験し、野球の素晴らしさを知っていただければ、子どもたちも続けるきっかけになる。工夫し、何かをひねり出し、皆さんに問いかけ、答えを出してもらいたい。とにかく、やってみること。以前からそういう思いは持っていましたが、はっきり言って20年ぐらい遅れたと思っています。スピーディーに、やや強引になるかもしれませんが、提案してご理解を得て、ご協力いただく。個人的にはあまり、得意なことではありませんが、自分のことではないので、今回は少し思い切って活動して行こうと思います」
公認指導者資格を取得
設立を前に、自ら動いた。今年3月、全日本野球協会(BFJ)が定める公認指導者資格(U12、U15)を、オンラインで取得したという。
「12歳以下、15歳以下を教えるライセンスを取ったんです。勉強になりました。教える側が理解しておかないといけない。指導者は自分の経験則ではなくて、より意識を高く持ってもらうためにも、資格は必要です。(普及・新興に)一緒にスクラムを組んでやるという思いもあります」
王代表が最も訴えたかったのは何か。将来の日本を担う人材に、目標を持つ大切さだ。
「人間は目指す人がいる、いないでは大違い。昔で言えば、ほとんどホームラン出ない時代に、ベーブ・ルースはあれだけ打った。よくヒーローは出現すると言われますけど、私も大谷さん(翔平、ドジャース)のような存在が出てくるとは思っていませんでした。自分が生きているうちに、アメリカの野球でホームラン王を取るような人が、日本の選手で出てくるとは、誰も想像していなかったですよ。でも、そういう人が現実として、出てきたんですね。同じ時代を共有できたことは、幸運だと思っています。大谷さんもまさか、こんな選手になれるとは思っていなかったはずです。誰を目標にしていたかは分かりませんが、一生懸命やっていくうちに、自分のできることが『もう少しできそうだな』と、現在の大谷さんになったと思います。今の子どもさんにも夢を追いかけてほしい。スター誕生をつなぐのは大歓迎なので、球心会としてスタートしますけど、いつの日か、とんでもない人が出てくることを待ち望みたいと思います」
野球からは、何を学ぶことができるのか。改めて5つの項目を挙げている。868本塁打を放った、世界のホームラン王の言葉は重い。
【1】体が強くなる
【2】努力する大切さ
【3】我慢することの意義
【4】仲間との出会い
【5】ルールを守る
野球を通じて、心身がたくましくなり、練習の成果を発揮できれば、喜びを得られる。ミスは次への糧とする。成果を上げる過程では忍耐力も必要。野球で得た友達は一生の財産。スポーツは必ず、規則に沿って競技が進められる。社会にもルールが存在し、秩序を持って生活。チーム競技として活動する全5項目が、人としての生き方につながるのである。
85歳が陣頭指揮、リーダーとなって行動する。
「とにかくやることなので、悪ければ改めればいいし、とにかくやらせてください。理想としては(各方面からの協力を得て)野球場をつくる。子どもたちが動ける場所を、もっとつくる。示したいんですよ。僕が記し、形をつくりますから皆さん、協力をよろしくお願いいたします」
野球への不変の情熱。鋭い目は、健在である。
文=岡本朋祐