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2025夏の甲子園

【甲子園】極上の投手戦となった左腕対決 「エースの矜持」を151球に込めた仙台育英・吉川陽大

 

「吉川と末吉君の空間」


3対3のまま9回で決着がつかずタイブレークへ。仙台育英の左腕エース・吉川は10回表を無失点に抑え、こん身のガッツポーズを見せた[写真=牛島寿人]


【第107回全国高等学校野球選手権大会】
8月17日 3回戦 阪神甲子園球場
沖縄尚学[沖縄]5-3仙台育英[宮城]
(延長11回タイブレーク)

 まるで傍観者のように……グラウンドでタクトを振り、真剣勝負の当事者でありながら、仙台育英の須江航監督はタイブレークにもつれたゲームをこう表現した。

「吉川(吉川陽大)と末吉(末吉良丞)君の空間だった」

 それだけ極上の投手戦となった指折りの左腕対決。150キロに迫るストレートに、「初見で対応するのは難しい」と対戦相手が口々に語るスライダーを持つ沖縄尚学の2年生左腕・末吉との投げ合いだ。完成度の高い3年生左腕の吉川は、仙台育英の「エースの矜持」を151球に込めた。

 同点とされた7回表を終えた時点で球数は106球。それでも、心の奥で「粘って、粘って」とつぶやきながら、8回表から再びピッチングのギアを上げた。タイブレークに突入した10回表。一死二、三塁とされながらも、沖縄尚学の二番・眞喜志拓斗(3年)をショートゴロ、三番・比嘉大登(3年)をセカンドゴロに打ち取って点を許さなかったピッチングには、吉川の意地が詰まっていた。

「自分のピッチングでチームを勝たせたい」

 10回表を終えた時点で球数は140球に達していたが、エースは迷うことなく11回表のマウンドに向かった。無死一、二塁から、遊撃手の一塁送球が乱れて1点を勝ち越される。なおも無死二塁で、五番・宜野座恵夢(3年)には左越え三塁打を浴びて失点を重ねた。

甘く入ったカットボール


吉川は11回表に2失点を喫し、その裏、二死三塁から打席に向かう[写真=牛島寿人]


 痛恨の一球は、変化球だった。

「カットボールが甘く入って……」

 試合序盤から「変化球をとらえられていた」と振り返る吉川は、点差を広げられた場面、思い描いていたコースに投げ切ることができなかった一球を涙ながらに悔やんだ。

 捕手の川尻結大(3年)は「ボール球でもいい」と考えていた。ただ、吉川自身も感じたように「甘くなってしまった」。川尻は、序盤からあった相手打線の変化球への対応のうまさを認めながらも、「自分がうまく吉川をリードできなかった」とエースの失投をかばった。吉川と同様に169球、最後まで投げ切った沖縄尚学のエースをこう称える。

「ストレートは強くてスライダーもいい。まだ完璧ではないと思いますけど、来年はさらにすごい姿が見られるんじゃないかなあと思います」

11回裏、吉川は最後の打者[二ゴロ]となり、しばらく立ち上がることができなかった[写真=牛島寿人]


 そんな好左腕と投げ合い、マウンドを守り続けてくれた吉川には、感謝の思いを語るのだ。

「一人でピッチャー陣を背負っている感じで……最後まで責任感を持って投げてくれました」

 8強進出を逃し、敗れた直後、仙台育英のエースナンバーを背負った吉川はグラウンドで、誰よりも感情をあらわにした。

「まだまだ仲間と野球がやりたかった」

 その思いは、溢れた涙が物語っていた。

整列後、仙台育英・吉川[背番号1]と沖縄尚学の2年生左腕エース・末吉は本塁付近で左手で握手し、健闘を称え合った[写真=田中慎一郎]


文=佐々木亨
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