殻を破った若燕

高卒5年目の今季、規定打席到達も見えてきている内山
最下位に低迷する
ヤクルトの光だ。
内山壮真が8月20日の
巨人戦(神宮)で、2点リードの5回一死二塁の好機に、左腕・
森田駿哉の直球を右翼線にはじき返す適時二塁打。勢いに乗った打線はこのイニングで一挙4得点を奪い、7対2と快勝した。
最近5試合で20打数7安打、打率.350、6打点。今季は上半身のコンディション不良で開幕は二軍で迎えたが、4月18日に一軍昇格すると、5月上旬以降はスタメンに定着している。広角に安打を積み重ねるだけでなく、長打率.421も評価できる数字だ。80試合出場で打率.279、7本塁打、37打点。現在315打席でこのまま順調に打席を積み重ねれば、あと数試合で規定打席に到達する。今年のヤクルトは
村上宗隆、
長岡秀樹、
塩見泰隆、
ドミンゴ・サンタナと主力選手たちが故障で長期離脱し、苦しい戦いを強いられてきた。
高津臣吾監督が若手たちをスタメンで使い続ける中、殻を破ったのが内山だった。
ズバ抜けた野球センスはアマチュア時代から有名だった。星稜中で2度の全国制覇を経験。U-15アジア野球選手権大会代表に正捕手で選出され、本塁打王に輝いて優勝に貢献した。星稜高に進学すると1年夏から3季連続甲子園出場。1学年上に
山瀬慎之助(現巨人)がいたため、入学時から遊撃を守ったが、俊敏なフットワークに定評があった。2年夏の甲子園では準々決勝・仙台育英高戦で2打席連続本塁打を放つなど準優勝に大きく貢献。だが、3年春夏の甲子園は新型コロナウイルスの感染拡大で開催中止に。自宅待機を経て、独自大会、甲子園交流試合に臨んだが、モチベーションを保つのは難しかっただろう。
「(自宅待機の期間は)地元に帰っていたので、周りに友達もあまりいなかった。本当に1人でしたし、そこは寂しさがありました」、「そのころには監督と進路の話をしていました。いろんな可能性がありましたけど、(最終的には)プロに行きたいという思いがあったので、もうそれだけです。そこの目標だけでやっていました」と週刊ベースボールのインタビューで明かしている。
日本シリーズで強烈なインパクト
ドラフト3位でヤクルトに入団し、高卒1年目の21年から一軍デビュー。翌22年は74試合に出場した。強烈なインパクトを与えたのが、
オリックスと対戦した日本シリーズだ。第2戦で3点ビハインドの9回無死一、二塁で代打に起用されると、
阿部翔太の141キロ直球を左中間席へ起死回生の同点3ラン。本拠地の神宮球場が大歓声に揺れた。敗色濃厚の展開で、延長12回の末に引き分けに持ち込んだ殊勲の一発。
西武で監督を務めた野球評論家の
辻発彦氏は、週刊ベースボールの解説で絶賛していた。
「今年の交流戦前、体は小さいがパンチ力のあるバッターだということは聞いていた。しかし、まさか本塁打となるとは。とにかく素晴らしい一撃だった。内山のポジションは捕手。高津臣吾監督は『配球を読みながら相手の持ち球を頭に入れて打席に立つことが多い。駆け引きができる打者』と内山のことを評していたが、捕手らしい読みで腹をくくったのだろう。追い込まれてからスプリットを見極めた時点で、真っすぐしかない、と。相手はフルカウントにしたくないからストライクゾーンに来る。迷いのなさは鋭いスイングに表れていた」
外野の定位置をつかんで
このまま一気にブレークするかに見られたが、23年は94試合出場で打率.229、6本塁打、27打点。昨年は上半身のコンディション不良で大きく出遅れ、一軍に昇格したのは8月上旬だった。24試合出場で打率.192、0本塁打、3打点と不完全燃焼に。10月に腰の手術を受けてリハビリに専念した。
プロ5年目の今年は外野で定位置をつかみ、ブレークの時を迎えようとしている。高い身体能力を考えれば、まだまだ発展途上だ。今年のセ・リーグは打率3割を超えている選手がいない。リーグトップは
小園海斗(
広島)で打率.293。内山は他の選手に比べて打席数が少ないため、安打を重ねれば打率がはね上がる。チームの勝利に全力を尽くした先に、首位打者獲得へ――。大歓声で背中を後押ししてくれるヤクルトファンの期待に応えられるか。
写真=BBM