頼もしいエース

2対2で迎えた9回表二死一、三塁。県岐阜商の2年生エース・柴田はこん身の144キロのストレートで、空振り三振に斬って取った[写真=毛受亮介]
【第107回全国高等学校野球選手権大会】
8月21日 準決勝
阪神甲子園球場
日大三[西東京]4-2県岐阜商[岐阜]
(延長10回タイブレーク)
同点で迎えた9回表。
マウンドを守り続けるエースの顔に、疲労の色が浮かぶ。この試合6度目となる先頭打者の出塁を許した県岐阜商の右腕・柴田蒼亮(2年)は、犠打や四球なども絡んで二死一、三塁とされた。
珠数は140球を超えている。疲れがないわけがない。それでも、2年生エースは信じ続けたボールでピンチを脱した。日大三の五番・竹中秀明(3年)を、最後はこの試合最速となる144キロのストレートで空振り三振に仕留める。
「思い切って投げよう、と。抑えて次の攻撃につなげられるように全力で投げた」
そう振り返る柴田の姿を見て「頼もしかった」と言うのは、明豊との3回戦では二番手で登板して4回無失点、横浜との準々決勝では先発して5回無失点と快投を演じた同じ2年生で左腕の背番号20・渡辺大雅だ。
「9回表の柴田は、よく踏ん張ったな、と、ここぞという場面で崩れなかった。さすがエース、絶対的なエースだなと思いました」
渡辺は、試合の早い段階から三塁側カメラ席の前でキャッチボールを繰り返していた。
「いつでも行く準備はできていた。でも、柴田までの信頼が僕にはなかったので……」
県岐阜商ベンチは、試合後半で接戦にもつれたら「渡辺に交代」と考えていた。だが、そのプランが決行することは最後までなかった。

16年ぶりの8強進出。2年生右腕・柴田が躍進の原動力となった[写真=宮原和也]
「負けん気が強いですね」
柴田の性格を渡辺はそう語るのだが、まさに折れない心で右腕はマウンドを守り抜いた。県岐阜商にとっては69年ぶりとなる決勝の舞台へ――。歴史と伝統が詰まった強豪校のエースナンバーを背負う者の矜持がそこにはあった。
だが、タイブレークに突入した10回表。日大三の強力打線の前に、柴田の「強い気持ち」は打ち砕かれてしまう。犠打で一死二、三塁とされてから連打を浴びて2失点。決勝点となった。

もともとは捕手だったという柴田。冷静沈着なマウンドさばきを見せた。日大三との準決勝は10回を完投し、164球の力投だった[写真=牛島寿人]
「よう打つなあ……」
試合途中にポロっとこぼれた柴田の弱気な声にうなずいた捕手の小鎗稜也(3年)がこう続ける。
「相手打線は狙い球がはっきりしていて、その狙った球を逃さなかった。仕留める能力があった。柴田の力強い真っすぐに対して振り負けない力は、すごいものがありました」
それでも、小鎗は言うのだ。
「自分たちのために腕を振ってくれて、柴田には感謝しかありません」
古豪復活を強烈に印象づけた県岐阜商のマウンドで右腕を振り続けた柴田をチーム
メイトの誰もがこう言う。
頼もしいエースだった、と。
文=佐々木亨