優勝に向かって連日の活躍

2年ぶりのVへ、チームに欠かせない存在となっている熊谷
阪神が8月24日の
ヤクルト戦(神宮)に8対1で快勝し、優勝マジックを2つ減らして「16」に。連日の活躍が光るのが、プロ8年目の
熊谷敬宥だ。2点リードの8回に代打で出場すると、左腕・
石原勇輝のチェンジアップを振り抜き、左越え三塁打。この一打で勢いづいた打線はこの回に一挙5得点を奪い、勝負を決めた。
打って、守って、走って。連日の活躍が光る。22日のヤクルト戦(神宮)では同点で迎えた延長10回一死満塁の好機で2ストライクと追い込まれたが、遊撃のグラブをはじく決勝の2点適時打。一塁上で右拳を突き上げ、三塁ベンチは大盛り上がりだった。翌23日の同戦では、5回に
山野太一の変化球を右翼線に。
太田賢吾が打球処理で後逸する際に俊足を飛ばして三塁に到達した。延長12回は中前打でチャンスメーク。守備でもチームを救った。7回二死で太田の三遊間を襲ったライナー性の打球に頭から飛び込み、地面スレスレで好捕。スーパープレーに球場がどよめいた。
今年は春季キャンプで下肢を負傷し、開幕は二軍スタートに。4月25日に一軍昇格すると、チームに必要なピースとなるために必死だった。代走のほか、本職の遊撃だけでなく、三塁や左翼で起用されることも。ベンチで戦況を見守る時から勝負は始まっている。「自分があの立場だったらどうするかとか、いつも考えています。例えば大山(
大山悠輔)さんのところで代走に出たら、状況を見て、また次はどう動くかとかね」と語っていた。
泥臭いプレースタイル
泥臭く、ひたむきに。熊谷のプレースタイルは歩んできた野球人生が大きく影響している。仙台育英高で2年夏から3季連続で甲子園に出場し、3年春はベスト8に進出。3年夏も浦和学院高との1回戦で、10対10の9回にサヨナラ打を放った。大会後にU-18W杯のメンバーに選出されると、桐光学園高の
松井裕樹(パドレス)、大阪桐蔭高の
森友哉(
オリックス)らと共にU-18W杯で準優勝を経験。立大に進学すると、主将を任された2017年に全日本大学野球選手権で59年ぶりとなる大学日本一に導いている。
華やかなキャリアだが、エリート意識はない。「僕はずっと目立つ選手ではなかったので。高校でレギュラーになれたのは2年秋から。大学でも3年になってから。高校時代から周りの仲間のほうが全然すごかった。自分よりもうまい選手、足の速い選手をいっぱい見てきたので」と週刊ベースボールのインタビューで振り返っている。
仙台育英高では同学年に、高校球界を代表する外野手だった
上林誠知(
中日)、阪神でもチームメートとなる
馬場皐輔がいた。2学年下には高卒ドラフト1位でプロの世界に進む
平沢大河(
西武)、スラッガーの
郡司裕也(
日本ハム)と能力の高い選手がズラリ。身長175センチと恵まれた体格とは言えない熊谷は守備、走塁、打撃の精度を磨き続けることに注力してきた。
本物のユーティリティープレーヤー

シャープなバッティングが光る。攻守もレベルが高い
ドラフト3位で阪神に入団後はスイッチヒッターに挑戦。プロ2年目から右打ちに専念したが、飽くなき向上心で上を目指す。二塁でゴールデン・グラブ賞を9回受賞した
菊池涼介(
広島)の自主トレに志願で参加したことも。「今までの感覚を1回忘れたほうがいい。少し変な言い方になるけど、ちょっとなめたような感じで大丈夫じゃないかな。ちゃんと追っているのかというぐらいでも、ちゃんとボールに追いつくから」と貴重な助言を受けた。
「これまでは慌てて捕球しにいった結果、ボールと衝突してしまうケースが多かった。良い感じでバウンドを合わせられても、体のスピードが邪魔してボールを弾いてしまう感じで……。そういう部分の感覚を丁寧に教えてもらいました」
熊谷は本物のユーティリティープレーヤーと言えるだろう。内外野で守備能力の水準が高い。それは、俊足を生かした身体能力の高さによるものだけではない。日々の努力が安定感を生み出している。
端正な顔立ちで女性ファンが多いが、武骨な生き様は「昭和」を感じさせる。この夏は高校球児のように髪を短く刈りこみ、球場にいち早く到着して黙々とルーティンをこなす姿が見られる。他球団からは「ウチなら遊撃のレギュラーで固定している。いい選手だよ」と評価が高い。首位を独走する阪神を象徴する選手の1人と言えるだろう。
写真=BBM