打線を勢いづける男

あらゆる面で中日打線をけん引している上林
逆転でのCS進出を目指す中日だが、試練が続いている。
9月6日の
巨人戦(バンテリン)は2回までに4点のリードを奪ったが、エースの
高橋宏斗が立ち上がりから制球が定まらず、4回までに110球を要して3失点で降板。1点リードの9回に守護神・
松山晋也が5連打を浴びて逆転負けを喫した。7日の同戦も3対6で敗れ、借金11に。3位・
DeNAと3.5ゲーム差に離された。
残り18試合であることを考えると、負けられない試合が続く。野手陣のキーマンになるのが
上林誠知だ。この男が打つと、打線が勢いづく。9月3日の
阪神戦(バンテリン)で1点差を追いかける5回二死一、二塁で、
伊藤将司の内角に食い込む直球にバットを折りながらも右前に運ぶ右前適時打。試合を振り出しに戻すと、続く
細川成也が決勝3ランを右翼席に叩き込んだ。
試合後のお立ち台でも、スタンドを盛り上げた。「1球前が外のボールでしたので、なんとなく内もあるかなと思っていたんですけど。8月はあのバットで結構打っていたんですけれど、あれで折れちゃったんですよ。ちょっとショックなんですけれど、また新しいバットで新たな気持ちで頑張りたいと思います」とコメント。36歳左腕・
大野雄大に今季9勝目をプレゼントし、「今日も素晴らしいおじちゃん(大野)が投げていたので、今日も援護できて良かったですし、明日も涌井(
涌井秀章)おじちゃんなので、自分と(細川)成也でしっかり援護できるように頑張りたいと思います」と宣言し、笑いと大きな拍手がわき起こった。
セ唯一の「15本塁打&25盗塁」
バットは折れてしまったが、暑い夏場で上林の活躍は目を見張るものがあった。8月は月間打率.349、4本塁打、12打点、7盗塁。8月30日のDeNA戦(横浜)では、初回一死三塁の好機で右前適時打を放つと、二盗に成功。3回は三塁に内野安打で出塁後、再び二盗で25盗塁に到達した。同点の8回一死一、二塁では
森原康平の高めに浮いたフォークを左翼線にはじき返す2点適時二塁打。猛打賞3打点2盗塁の大活躍で、今季セ・リーグで唯一の「15本塁打&25盗塁」に到達した。
ソフトバンクでは2018年に22本塁打をマーク。23歳の成長株は「天才打者」と称されたが、魅力は打撃だけではない。スピード感あふれるプレースタイルで走塁、外野守備の貢献度が非常に高い。22年に右アキレス腱断裂の重症を負い、今年で30歳を迎えたが、「全然、まだまだ、これからです。自分では伸びしろしかないと思っているので。アキレス腱を切ったり、いろいろと大ケガがあって、たぶんそういうイメージがもう付いてしまっている部分があると思うんですけど、それを払拭するプレーを見せていきたい。アキレス腱を切ったことで足が遅くなったと思われているかもしれませんが、全然そんなことはなくて速いですから」と週刊ベースボールのインタビューで語っていた。
近本に1差の27盗塁
今年のパフォーマンスはその言葉を見事に証明している。118試合出場で打率.273、15本塁打、46打点、27盗塁。リーグトップの28盗塁をマークしている
近本光司を1差で追いかけ、自身初のタイトル獲得を狙える位置につけている。数を積み重ねているだけでなく、盗塁成功率87.1%は上位10選手の中で最も高い数値で、チームに大きなプラスアルファをもたらしている。
逆境からはい上がった男は強い。以前にこう語っていた。
「2022年に右アキレス腱を断裂して一度は終わった選手と思われたと思います。翌23年にはソフトバンクを戦力外。好きな言葉は『運命を愛し、希望に生きる』。仙台育英高でお世話になった佐々木順一朗元監督(現学法石川高)が室内練習場に掲げていました。起きることは自分が引き寄せている。その運命から逃げずに希望を持って生きる。戦力外になったときも『面白ぇじゃねえか』って気持ちでいました」
CS進出に貢献することが、救いの手を差し伸べてくれた中日への恩返しにつながる。伸び盛りの30歳がダイヤモンドを疾走する。
写真=BBM